気圧や気温、湿度など気象変化によって、頭痛やめまい、倦怠感など身体にさまざまな症状が引き起こされる「気象病」。#1(【気象病#1】雨が降りそうになると頭痛がする、だるくなる人は必読!「気象病」のメカニズムを医師に聞く)では、この症状の臨床治療の第一人者で、せたがや内科・神経内科クリニック院長の久手堅司(くでけん・つかさ)先生に、症状が起きやすい人や理由について聞いた。今回の#2では、対策法について聞いていく。
「気象病かな?」と思ったら、まずは耳鼻科へ
正式病名ではないものの、徐々に気象病は知られるようになり、ポツポツと「気象病外来」を掲げるクリニックは出てきてはいる。が、身近に専門外来がない地域も多いに違いない。そんな場合はどの診療科に行けばいいのだろう?
「まずは耳鼻咽喉科を訪ねてみてください。#1でも説明したとおり、気象病に多い頭痛やめまいには、耳が関係している場合があるからです」(久手堅先生)
久手堅先生によれば、何か基礎疾患がある場合、気象の変化という外的要因が加わるとさらに悪化して症状が出る場合が多いとのこと。そのため、気象変化によって頭痛やめまいの症状が発生するなら、まずは耳鼻科で耳から来る症状でないかを診断してもらおう。同じように、特に頭痛がひどいなら脳神経外科でMRIを、動悸があるなら循環器科か内科で心電図をとるなどして、症状の原因となっている病気が潜んでいないかを診断してもらうことが大切だ。気象病の治療は、思わぬ大病から来ている症状ではないとわかってから始まるものと覚えておこう。
注意したいのは、初診で自ら早々に「気象病ではないですか?」とドクターに尋ねることだ。気象病は正式病名ではないので、ドクターからは、「そんな病気、ありませんよ!」と言われることさえありうるという。
どう調べても、頭痛やめまい、動悸などが起こる原因が見当たらないと言われた段階で、ドクターに“天気が悪くなると症状が悪くなって……”と打ち明けるといいかもしれない。
「昨今、私も医師向けの取材が増えています。気象病を認知しているドクターなら、その時点で気づいてもらえるかもしれません」(久手堅先生)
気象病の認識が広まっていることは事実で、久手堅先生のクリニックにも、他病院やクリニックからの紹介状を携えた患者さんが増えているという。
「少しずつ、気象病のことが知られてきているようです。私がこの外来を開設した6年前と比べても、認知の度合いは段違いに高まってきています」(久手堅先生)
気象病治療に効果の高い漢方「五苓散」
では、頭痛やめまい、動悸などの諸症状がどうも気象病らしいとわかったら、どんな治療があるのか?
「漢方薬の五苓散(ごれいさん)がよく効きます。漢方の診断で言う『水滞』という状態に使われる薬で、体内の水分を調整する効果のある薬ですが、これを使うと50%以上の患者さんに効果があります。“なんとなくよくなった”と答える患者さんを入れると、80%の方に効果が現れます。おしっこの回数が増えるという副作用はありますが、その他に目立った副作用は少ないですし、気象病に対してここまで効果のある漢方は、そうそうないと思いますね」(久手堅先生)
とはいえこの五苓散、例えば首・肩こりには効果は薄い。さらには8割の患者さんの症状を劇的に改善させても、2割の患者には片頭痛、めまいといった症状が残るという。
「そのような患者さん、例えば肩こりが治らない方には筋弛緩薬という筋肉の緊張を和らげる薬を使ったり、頭痛が治まらない方には片頭痛予防の薬や、湿布薬、頓服薬を追加するなどします。私はたくさんの薬を使ったり、急に強い薬を使ったりは決してしません」(久手堅先生)
治療以外にも、生活改善やマッサージなどが効果的
こうした治療以外にも、実は生活改善や、マッサージやストレッチといったセルフケアでも予防効果や改善が期待できると久手堅先生。なぜならば気象病は自律神経と関係が深い症状。生活改善で身体のリズムを整え、マッサージやストレッチでほどよく身体を動かすことは、自律神経をいたわることになるからだ。
気軽にできる生活改善としては、
(1)早寝早起き(朝起きられない人におすすめ。いつもより1時間早く寝て、1時間早起きして身体を動かす)
(2)頭と耳のマッサージ(下記参照)
(3)背筋を伸ばす(動悸や息が苦しいときにおすすめ)
(4)パソコンやスマホの使用は控えめに。連続使用は1時間までにする(首・肩こり、ストレートネックの予防)
(5)身体を動かす(ラジオ体操などもおすすめ)
(6)入浴(38~40℃のややぬるめのお湯に10~15分しっかりつかって身体を温める)
などがいい。特に(2)の頭と耳のマッサージは、ぜひ試してほしい予防法のひとつだという。
「どんな生活をしている人でも、身体には負担がかかっているものです。私は普段、パソコンを正面に、患者さんには左側に来ていただいて診察しています。つまりは身体を常に左(患者側)に向けているわけで、私自身は身体の左側に負担をかけているわけです。このように、どんな人にも身体を改善する余地があります」(久手堅先生)
こうした身体の改善策こそが、生活改善やマッサージにあたる。そしてこれらは、気軽に、根気よく続けることが大切と久手堅先生。そこで、先生おすすめのマッサージを2種紹介。「トイレに行ったらついでに必ずやる」など習慣化して、まずは2週間続けることを目標にトライしてみてよう。
空いた時間にすぐできる! 習慣化したい「頭と耳のマッサージ」
頭部や耳まわりのこりは、脳の血流不良を引き起こす。血流不足から来る脳の酸素量不足は、食いしばりによる「こり」など、さまざまな不調の原因に。
■頭部のマッサージ■
(1)頭皮
頭全体をつかむようにして、軽くもんだり叩(たた)いたりしてほぐす。
(2)目のまわり
目をつぶり、まぶたの上を2~4本の指で30秒程度軽く押す。
(3)こめかみ
痛いところを2本指で30秒程度軽く押す。
■耳のマッサージ■
(1)耳水平伸ばし&斜め引っ張り
耳を持って10秒ほど水平に伸ばしたら、斜めに引っ張り上げる。逆方向も同様に行う。
(2)耳まわし
耳たぶを持って前方向に5回、後ろ方向に5回、ゆっくりとまわす。
アプリ「頭痛ーる」を使いながら、身体のメンテナンスを
さて、気象病持ちさんに、久手堅先生が「ぜひ!」とインストールをすすめるアプリがある。それこそが「頭痛ーる」だ。
これは気候の変化による気圧の変動をプッシュ通知で教えてくれるアプリのこと。iPhoneユーザーなら「AppStore」、Androidユーザーなら「Google Play」からインストールすることができ、所在地を入力すれば、気象病による体調悪化が起きそうな日時を爆弾マーク付きで教えてくれるほか、痛みや服薬の記録もできる。このアプリを使うことで、気圧の変化とともにやってくるであろうさまざまな症状に備えることができるのだ。
「例えば明日の朝、大事な用があるけれど、『頭痛ーる』の予報によると相当、天気も悪い……というとき。そうなったら1時間早く起きてストレッチや体操をしたり、薬を飲むなどして備えることができます」(久手堅先生)
加えて、先に紹介した運動習慣やマッサージなどのセルフケアを行うようにすれば、症状を軽減することができるだろう。
「例えば根本原因となっているのが首・肩こりからの頭痛でしたら、こりさえ治せば気象病を寛解させるのはそれほど難しくないんです。10人のうち1~2人は寛解するし、運動習慣などのメンテナンスを続ければ、さらに相当数の患者さんが寛解したり、薬の量を減らすことが可能な病気なのです」(久手堅先生)
車もメンテナンスのあるなしでは、持ちが大きく異なる。人間の身体も同じだ。いつまでも愛車で快適に走りたいのなら、部品のチェックやワックスがけが欠かせないように、人間も健康に過ごしたいのなら、身体にも日ごろのメンテナンスが欠かせない。
「気象病では、いきなり頑張って大変なエクササイズをやるよりも、簡単な運動やマッサージを気長に、根気よく続けることが大切です。そして、“今日は体調がいい”と感じる日を積み重ねていくようにしていってください」(久手堅先生)
(取材・文/千羽ひとみ)
〈PROFILE〉
久手堅司先生
せたがや内科・神経内科クリニック院長。医学博士。気圧予報・体調管理アプリ「頭痛ーる」監修医師。「自律神経失調症外来」などの特殊外来を立ち上げ、「気象病・天気病外来」などの特殊外来では、これまで5000名以上を診察。著書に『気象病ハンドブック』(誠文堂新光社)、『最高のパフォーマンスを引き出す自律神経の整え方』(クロスメディア・パブリッシング)、『毎日がラクになる!自律神経が整う本』(宝島社)など。