転妻だからこそわかる、地方のいいところ

──みなさんは、転妻でよかったことってありましたか?

信田「長野に住んでいたときは善光寺が近かったので、毎日のように子どもを連れていっていました。札幌では、スーパーに六花亭(人気の製菓メーカー)が入っていたので、よく買いにいきました。六花亭って、実はテーマソングもあるんですよ! 地元民だと、お店の存在が当たり前になっていると思うので、(地元の銘菓にも喜びを感じられるところが)道外から来てよかったって思いましたね

加藤「青森は日本のなかでも四季がはっきりしていました。1年を通して住んでみたからこそわかったし、ほかの地域から移ってきたから気づいたと思う。春の芽吹きの緑の美しさや、夏に響く蝉(せみ)の声。ねぶた祭りが終わると秋の風が吹いて、山が燃えるような紅葉になる。冬は深い雪。ずっと住んでいると(慣れてしまって)わからなかったと思うので、いい経験ができました」

青森の四季の美しさを思い出し、優しくほほえむ加藤さん

尾田「関東から北海道に旅行に行くと、観光地をピンポイントでしか回れない。でも、住んでいれば道内旅行や、キャンプにも出かけられる山口にいるときは絶景が広がる角島大橋も見に行けたし、転勤先を拠点に、なかなか行けない場所に足を運べたのはよかったです

入間川「私は地方出身なので、大好きなディズニーランドには飛行機に乗って行っていましたが、埼玉に転勤になってからは、いつでも行けるからうれしいなって思いました。あと、福岡はご飯がおいしいし、宮崎や鹿児島など、これまで行きづらかったところへも旅行がしやすくなったので楽しいです」

──反対に、転妻でつらかったことはありましたか? 私は子どものころ、遠方に住む祖母と1年に1回しか会えないのが寂しかった記憶があります。

信田確かに、実家が遠いのはつらいなって思いますね。うちの両親はフットワークが軽いので、地元から北海道にも来てくれたりしました。でも、今はコロナウイルスの影響もあって、兵庫に住む夫の両親とは2、3年くらい会えていない。子どもも、祖母の記憶が薄れていくみたいですね

尾田「つらいのは、子どもが病気になったときでしたね。兄弟が順番にうつって、最後に自分がかかってしまっても、親元が遠いので頼れなくて。あと、自分の仕事のキャリアも中断しました。転妻は、決まった仕事に就きにくいというデメリットがありますね」

転勤を繰り返すなかでの苦悩、得られたことは?

 尾田さんが語った「決まった仕事に就きにくい」という悩みに、大きくうなずいた一同。

──転勤しながらのキャリア形成は、転妻たちに共通の悩みかもしれません。

入間川「私も、自分のキャリアへの喪失感をすごく抱きました。これから結婚する方で、転勤族と付き合っている人には、仕事に関する葛藤があるよ、ということを声を大にして言いたいですね。仕事については特に、自分だけじゃどうしようもできないってことが、かなりありますね」

──これからは、どこにいても働けるようなリモートワークも、どんどん定着するといいですよね。

入間川「自分が稼げる収入も変わってきますし、正社員でずっとやっていきたい人には、転妻はつらいかもしれません。でも転勤族の奥さまって、周りを見ると優秀な方や、人間力がすばらしい方が多いんですよ」

──それは今回、お話を伺っていて感じました。

入間川「社会に出て活躍できるのに、夫の仕事の関係で専業主婦をしている人もいる。今は昔よりは自由度が高くなったけれど、まだ難しいですよね。私はそのあたりの支援をライフワークのひとつにしたいと思っていて、キャリアについての勉強をしています」

──転妻のみなさんは、新しい環境になじむコミュニケーション能力も高いですよね。

尾田「うちは男の子が3人なので、外との関わりが避けられませんでしたね。息子が勝手に約束してきちゃったりするので、子どもを介してのコミュニティに入らないといけない。(地元の方と)豚汁作りとかもやりました。でも、あとで考えると、それが転勤先の地域を知るきっかけにもなったので、よかったです」

──転妻だからこそ、身についたスキルがありますか。

入間川「情報収集能力と、環境適応能力ですかね」

 一同、首を大きく縦に振る。

入間川「適応できる力は、地元にいたころより、ついたなと思います。さらには、危機回避能力とかね」

加藤「家を選ぶときなんかは、そのカンが特に働きますよね。一生住むわけではないけれど、慣れない土地に何年か住むので真剣だし。夫からも、“家を探すことになったらすごいよね”って言われました(笑)」

──転勤族にとっては特に、家が癒やしの場所になりますよね。

加藤「夫も慣れない土地で働いて疲れて帰ってくるので、ゆっくりできる環境を作るのが、私の仕事のひとつかなって思う。たとえ夫婦で会話をする時間がない日でも、帰ってくれば安心できるっていうのなら、それがいちばんですよね」

 家選びから子どもの教育まわり、そして夫のサポートなどまで、自分のキャリアを差し置いても、家族を支えながら奮闘している転妻たち。多様性が叫ばれる世のなかで、転妻たちのキャリアを生かして活躍できるような場がもっと増えることを願う。

(取材・文/池守りぜね)

【取材協力:『転勤族協会TKT48』URL→http://tkt48.net/