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芥川賞受賞から6年、村田沙耶香さんの創作ルール「毎日トランクを引いて外出」「最初にイメージするのは水槽」

SNSでの感想
村田沙耶香さん。丁寧かつ穏やかな受けごたえから、お人柄のよさがにじみ出ていました 撮影/高梨俊浩
目次
  • 女性らしさを求めないコンビニのバイトが向いていた
  • 1日のリズムを作って外で書くのが向いている
  • 山田詠美さんの文章が純文学小説を書くきっかけに
  • 頭の中の水槽に登場人物を入れると物語が動き出す
  • 小説は教会、執筆は儀式であり“信仰”でもある

 2022年6月、海外で先に発表された小説やエッセイ6編を含む短編集『信仰』(文藝春秋刊)が刊行された小説家・村田沙耶香さん。『コンビニ人間』の芥川賞受賞から6年がたちましたが、創作にまつわる村田さんの思いはずっと変わりません。新型コロナの影響がいまだに続き、日々の執筆業にも変化がある中、どのように村田さんならではの物語を作り上げているのか、詳しく話を聞きました。

女性らしさを求めないコンビニのバイトが向いていた

──改めてお聞きしたいのですが、2016年に村田沙耶香さんが芥川賞を受賞した『コンビニ人間』は、どのように着想を得たのですか?

「コンビニを舞台にすることは最初から決めていて、当初は店長に内緒で店員みんなが、バックルームで“野性の男の人”を飼う設定だったのですが、うまく話が進まなくて一度ぜんぶ捨てて、設定をすべて作り直したんです。意識したわけではないのですが、最初の設定は『コンビニ人間』の後半、主人公がお風呂場で男性を飼うシーンにつながったのかもしれません」

──村田さんご自身も、主人公と同じようにコンビニ店員でした。コンビニで働くことにこだわりがあったのでしょうか?

私はとてつもない人見知りなので、コンビニのオープニングスタッフの募集を見て、大学生時代にアルバイトを始めました。そのお店は閉店してしまいましたが、それからもコンビニのオープニングスタッフに応募し、お店の閉店まで見送ることを繰り返していました。

 一度コンビニを辞めてファミレスのオープニングスタッフになったのですが、“フロアで働く女性はきちんとお化粧をしてストッキングをはいて、常に見られていることを意識し、女性らしい美しい立ち居振る舞いをしてください”と指導されて、それが私には少し苦しかったのです。

 昔のことなので、そのファミレスも今はルールが違うと思いますが、当時は男女の制服が同じで、立ち居振る舞いが女性的であることをそこまでは求められないコンビニのほうが『店員』という無性別な存在に近づきながら働くことができる感覚があって、またコンビニのバイトに戻りました

新宿のコンビニで働いていたこともあるそうで、「朝6時くらいはベロベロになった人が多くて大変でしたね(笑)」と振り返る 撮影/高梨俊浩

1日のリズムを作って外で書くのが向いている

──村田さんは芥川賞受賞時もコンビニのバイトを続けていて、当時は午前2時に起きて執筆をしてから出勤されていたそうですが、受賞の2年後にバイトを辞めたあとは、どのように執筆を生活の中に組み込んでいるのですか?

私は一日のリズムを作って小説を書くのが向いていて、新型コロナが流行する前は、出版社さんに通わせていただきながら書いていました。物音や人の声が少しあったほうが集中できるので、会議室のような扉が閉じられる場所ではなく、食堂の中の小さなブースや、廊下に並んでいるテーブルと椅子をお借りして、そこで書きました。

 コロナ禍ではなかなか出版社に行けなくなり、かといって家では集中できないので、朝起きたらモーニングを食べに近所の喫茶店に行って執筆、昼はほかの喫茶店でランチを食べて執筆、夜はファミレスに移動して執筆してから帰宅、というルーティーンにしました

 いつも執筆道具が入ったトランクをがらがらと引いて現れるので、喫茶店の店員さんには“この人、何だろう?”と思われているかもしれません(笑)。新型コロナが流行する前は執筆に没頭したあと、気分を落ち着かせるためにバーで1杯だけお酒を飲んで帰ることもありました。格好よく聞こえるかもしれませんが、疲れてよろよろしながらトランクを引いて行っていたので、はたから見たらそうは思われていなかったと思います」

──村田さんのお人柄がよくわかるエピソードで興味深いです。執筆業はフリーランスのお仕事ですが、休日はどのようにとっているのですか?

「本当は週5で書いて土日は休みにしたいのですが、締め切りがあるため、なかなかそうはいかないですね。小説を書き終えたら、その日のうちに新しいノートを広げて次の小説を書き始めることにしているのですが、芥川賞を受賞した直後は忙しくてそれが難しくなりました。

 インタビューやサイン会のほか、エッセイ執筆の依頼をたくさんいただいて、いつも執筆道具を持ち歩いてはいたものの、小説を書かない時期が続いてしまい……そのあとで書く感覚を取り戻すのが大変でしただから今は、小説を書かない期間が長くならないように気をつけています

「忙しすぎてリズムが狂ったときは一大事でした」と苦笑い 撮影/高梨俊浩

山田詠美さんの文章が純文学小説を書くきっかけに

──小説を子どものころから書かれていたとか。ずっと現在のような純文学小説だったのですか?

「子どものころはティーン向けの少女小説が好きで、少女小説家になりたいと思っていました。純文学小説を書きたいと思ったきっかけは、高校生のころに山田詠美さんの『風葬の教室』を読んだことです。山田さんの言葉や文章の美しさに打ちのめされて小説を持ち歩き、何度も繰り返して読みました。

 本はつながっていくので、そこから三島由紀夫など山田さんの本に出てきた作家の作品も読むようになりました。サイン会に行ってお会いしたときはうれしかったです。また、松浦理英子さんや小川洋子さんの小説も学生時代からずっと好きです」

──近い世代の方ですと、どの作家さんがお好きですか?

「お会いしたことのない作家さんなので、ひとりのファンとして、今村夏子さんの小説が好きです。今村さんの小説から見える世界は、私にとって特別な意味を持っていると感じ、憧れています。

 それからプライベートのお友達でもある朝吹真理子さんの文章も、私にとって特別なものです。お友達なのでなかなか直接伝えられていない気がするのですが、エッセイなどでも、自分にとって日常的な言葉が、たくさんの時間や意味をもって美しく膨らんで、唯一無二になって存在しているような感覚に陥りますその作者にしか創れない言葉たちを、大切に思って読んでいます

──「その作者ならでは」は読者が村田さんの小説に対しても感じていることですね。現在、村田さんは新人作家を輩出する文学賞の選考委員を務めてらっしゃいます。最終候補作を読まれるときは、ふだん趣味で小説を読むときと比べ、どのような意識の違いがありますか?

選考委員として読むときは“いいところを見つけたい”という気持ちが大きいです。私は『群像新人文学賞』の優秀賞という佳作のような賞をきっかけにデビューして、当選作でなく優秀作でも機会を頂戴したことに感謝しているので、できるだけ多くの方にデビューしていただけるといいなと思っています。

 読むのが遅いほうなので、選考委員として読ませていただくときは、自分の原稿をいったんストップして、完全にその作業に集中できるように、できるだけ調整しています。何度も何度も読み返すことで、最初に読んだときとは違う見え方をすることもあるので、時間がかかります

「小説は読むたびに新しい発見ができて楽しいです」と村田さん 撮影/高梨俊浩
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