最新作『香夜たちの話』を完結させたい

最新作『香夜たちの話』は自身が描きたかった甘い青春ストーリーになっている

──現在連載中の最新作『香夜たちの話』ですが、これまでの小田桐さんの作品とは違い、純粋な甘ずっぱい青春物語になっています。テーマを選んだ理由を教えてください。

「これは自分が描きたかったジャンルなんです。過去に『帰ってきた魔法使い』という作品で、心が温まるような優しいファンタジーにチャレンジしたことがあったのですが、COMITIA(同人誌即売会)に出したときにウケなかったんです。“小田桐圭介に求めてるのはこういうのじゃない”って」

──今までとガラリと雰囲気が変わってしまったから、ファンとのあいだでギャップができてしまったんですね。

「はい。ただ、いつか“人が死なない、とっぴでもない、優しい漫画をもう一度描きたい”って思っていたんです。求められているものを描かなきゃいけないという思いはありつつ、自分が描きたいものを描こうと

──確かにストーリー性もこれまでと違いますし、そもそも、こういう長期連載自体が初めてですよね?

「そうですね。今までは短編作家って言われ続けてきたんですけど、その理由はCOMITIAで発表した漫画が、ぜんぶ読み切りの短編だからなんですよ。年4回しか開催されないイベントだったので、短編のほうが都合がいいんです。『香夜たちの話』も、最初は短編のつもりでした

──そもそも連載にするつもりはなかったんですね。

「はい。『香夜たちの話』の第1話『幼馴染は可愛くなぁれ』を読み切りで出して、その次も短い恋愛ものを描こうと思いました。ただ、毎回キャラクターをガラっと変えるのも大変だし、世界観は共通にしようと思って、2作目で話し相手に香夜(『香夜たちの話』主人公)を出したんですよね。そうしたら、3作目の姫香と伊志原の話を描いたところで“これは、このまま続けたほうが面白くなるんじゃないかな”って思い、連載に切り替えました

──そうだったんですか、面白い派生ですね。短編と長編で作り方の違いはありますか?

「特に違いはないですね。例えば、週刊誌みたいな長編連載だとページ数も決まっているし、話が面白くなかったらもう読まれなくなります。1話の中で、なにかしらの見せ場が必要になるんです。

 でも私の場合は、自分の好きなページ数で好きなように話を描いているので、いわゆる“つなぎの回”があっても構わないんです。ストーリーは頭の中で完結しているので、ものすごい長い短編をぶつ切りで描いているイメージです」

──現在『香夜たちの話』はKindleで7巻まで発表されていますが、完結までは、あとどれくらいになるのでしょうか。

まだまだ先になると思います。すでに頭の中に浮かんでいるストーリーを描くだけなんですけど、最後まで描くとすごいボリュームになってしまうんです。本当に数年先までかかる。そのときのモチベーションや環境、あと緑内障のこともあるので、ぜんぶ描けるかはわかりませんが、この作品を完成させることに力をいれたいですね

──『香夜たちの話』の見どころを教えてください。

「回によって、出てくるキャラクターのタイプがそれぞれ違う作品です。姫香と伊志原は情念の強い2人、真琴と伊角は恋愛がヘタな2人、香夜と幼なじみの裕太は距離感が近い2人。タイプが違う2人組が、どのように進展して、どのような関係になるのかという、それぞれの性格だからこそ出せる物語のだいごみを楽しんでいただければと思います

『香夜たちの話』に登場するキャラクター。性格の違うキャラ同士の青春模様に注目

──最後に、小田桐さんの作品を楽しみにしているすべてのみなさまに、ひと言をいただけたらと。

「働きながらなので、更新がどうしても遅くなってしまい大変恐縮ではありますが、読み終わったあとには、幸せな気持ちになれる漫画にするつもりなので、お付き合いのほどよろしくお願い致します
 

◇   ◇   ◇

「視力を失いながらも、漫画を描き続けたい」

 そんな思いを淡々と、しかし、胸に秘める情熱とともに、力強く答えてくれた小田桐さん。視力が続く、残り少ない時間で『香夜たちの話』の完結を目指し、今日もペンを執り続けます。

(取材・文/翌檜 佑哉)


【PROFILE】
小田桐圭介(おだぎり・けいすけ) ◎大学入学時から漫画を描き始め、同人誌即売会「COMITIA」などで販売。会社員として働くかたわら、2010年の秋に『月刊アフタヌーン』主催の漫画新人賞「アフタヌーン四季賞」で佳作を受賞。Twitterに漫画を投稿したことがきっかけで『あたし、時計』『さくらちゃんがくれた箱』といった短編作品がバズり、数年おきに注目を集めるロングヒットになっている。作品に『オダギリックス!小田桐圭介短編集』『香夜たちの話』などがある。

◎公式Pixiv→https://www.pixiv.net/users/37972190
◎公式Twitter→@odagiri_keisuke
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