覚悟ができていたせいか、泣きも動揺もしなかった
静かな夜だ。特別な夜だ。覚悟ができていたせいか、そこには、泣きも動揺もしない自分がいた。わたしは、グレの定位置だったスツールをどかし、ムートンの毛皮の上にグレを寝かせた。白い毛皮がゴージャスなグレにはぴったりだ。なんて美しいのだろうか。
グレは目を開いていたが、そこには魂はない。なんとも不思議な感覚なのだが、グレの亡骸を見ているだけで心が落ち着いた。死んだという悲しみより、二人でいる幸せとでもいうのだろうか。なでてみた。冷たい。ごつごつしている。静かで美しい夜。初めてグレに言葉をかける。
「グレ、長い間、ありがとうね。一緒にいてくれて本当にありがとう。あんまりいいマミーではなかったかもしれないけど、マミーは幸せだったよ。だって、マミーはグレが世界で一番好きだったから」
そう言うと、わたしはおもむろに、古い大きなスケッチブックをとりだし、グレの姿を焼き付けようと、夢中で鉛筆を走らせた。そのときに描いたスケッチがこれだ。
不思議な感覚なのだが、亡骸であるにも関わらずグレが部屋にいると、寂しくなかった。先代のメッちゃんのときは、亡くなった翌日に、実家の裏の河原にこっそりと埋葬したので、亡骸と一緒にいることがなかったが、グレをペット葬儀社に埋葬してもらうまでに数日あったので、二人の時間を楽しむことができた。
*第14回に続きます。