“ぬいぐるみの病院”から見えてきた大人のぬいぐるみ愛

「友だち」や「家族」として長く一緒に過ごしてきた人にとって、ぬいぐるみはかけがえのない唯一無二の存在です。破けても擦れても、愛情が変わることはありません。ただ、ぬいぐるみが傷んでいる姿には、「痛そう」「かわいそう」という思いもあふれてきます。こうしたぬいぐるみや家族のために、サン・アローが3年前に設立したのが「ぬいぐるみの病院」です。

ぬいぐるみの病院「テディズ・クリニック」(サン・アローのホームページより)

ぬいぐるみの修理は以前から行っていたものの、改めて3年前に“病院”という形で始めたのが、テディズ・クリニックです。持ち主とぬいぐるみとの大切な思い出を可能な限り残すことを大切に取り組んでいます

 ホームページをのぞいてみると、そこに広がっているのは本格的で夢いっぱいなぬいぐるみ病院の世界でした。サン・アローのぬいぐるみたちがドクターやナースとして登場し、治療内容や入院説明をする姿には思わずときめきます。

 サン・アローが過去に発売したぬいぐるみを対象に、診療項目は基本診療のほか、内科や外科、眼科・耳鼻科、皮膚科など多数。まずは検査入院としてぬいぐるみを預かってさまざまな角度から診察し、治療方針や費用を決めていきます。保護者(持ち主)納得のもと入院治療が始まり、1〜2か月の入院を経て退院へ。愛情のこもった治療(修理)が施されるのです(※2022年8月26日現在、一時的に新規の申込み受付を停止中)。

 テディズ・クリニックには、簡単な修理ですむものから、大掛かりなものまで、さまざまなぬいぐるみが持ち込まれています。「例えば……」と関口社長が見せてくれたのは、“退院したお友だち”の資料。治療したすべてのぬいぐるみのカルテで、写真や治療経緯などがまとめられています。

例えばこのウサギのぬいぐるみは、ずいぶん前に販売されていたもので、耳をはじめ全身がペシャンコにつぶれていました。毛が抜けたりつぶれたりしているところは植毛し、破れて詰め物が出ているところは現代の素材を詰め直して、ふさぐ治療を行いました

治療されたぬいぐるみの例(テディズ・クリニックのホームページより)
愛着のある姿を残しながら、きれいに治療する(テディズ・クリニックのホームページより)

 依頼の中には、耳が取れて生地が破れ、原形をとどめていないものもあったといいます。

ぬいぐるみの修理で一番簡単なのは、生地をすべて変え、作り直してしまうことです。ですが、このテディズ・クリニックの治療ポリシーとして、ぬいぐるみとの思い出や愛着のある姿、雰囲気を残すために、可能な限り使用されている生地やパーツを残し、購入時の姿に戻す修理を行っているのです。

 耳が取れて原形がなくなったぬいぐるみの場合、ここまで大事にされていたことを残しておきたい、という気持ちが強くなりますね。雰囲気や思い出を残すことを一番に、耳がないとかわいそうなので新しく耳を付け、生地は破れないように裏張りをして補強する対応をしています」

 原形がなくなり、破けていたぬいぐるみは、ふわふわな毛並みと頑丈な生地をまとい、思い出はそのままに、新たに生まれ変わったようでした。ぬいぐるみの修理は、古くなったものをきれいにするだけではなく、再び家族と幸せに過ごせるようにすることなのです。

ぬいぐるみの病院は、ぬいぐるみをずっとそばに置き続け、次の世代に渡してあげられる取り組みです。“ものを長く大切にする”という、ぬいぐるみメーカーができるわれわれなりのSDGsですね。お客様にぬいぐるみとの幸せな生活を送ってもらいたいという思いで続けています

 ホームページには「退院したお友だち」というコーナーがあり、ぬいぐるみの修理前と修理後の写真を見ることができます。「修理の依頼が圧倒的に多いのは、1982年に発売されたウサギとクマとイヌのぬいぐるみ『ラッキー・マック&サンディ』です」と関口さん。このラッキー・マック&サンディは、発売当時、一躍ブームとなったぬいぐるみで、発売して40年がたちました。

 テディズ・クリニックを通して、長い間大切に持っている人が多いことを知り、ぬいぐるみがいかに愛されているかを実感した、と関口社長は話してくれました。