趣味や価値観が同じ男性と結婚すれば、うまくいくのか

──趣味と婚活についてなんですが、明日香さんは漫画や小説もお好きということです。二村さんは本や映画の感想を語りあうとか、初対面の参加者同士が、恋愛やセックスで体験したことや考えたことを共有しあうイベントを、オンラインでも対面でもやっておられます。そういう場で、例えば、読書という共通の趣味がある異性と知り合うチャンスが作れれば、感受性や価値観の合う人を見つけやすいものなのでしょうか?

二村「読書会や趣味のサークルは、婚期が遅れがちな層の出会いやマッチングとしては、とてもいいと思います。ただ、本や映画について語り合うのでも、料理やスポーツ、アウトドアなどでも、“自分のほうがよく知っている” という知識語りのマウンティングをしてしまう人がいるんですよね。体験談をもとにした対話のイベントだと、求められていないアドバイスを始めてしまう人もいる。男性に多いですが、女性にもいます。悪気はないんだと思いますが、そういう人は感想や意見を借り物の言葉で述べるので、自己開示につながらない。おそらく自身の価値観を壊されたくなくて、無意識に防衛しているんです」

明日香「わかるような気がします。職場にもそういう人、多いです」

二村「また、自己開示と言っても、いきなりトラウマ的な過去の話とかまでぶっこまれて依存されても困りますよね。なんでも話せばいいというものではなくて、対話でも交際でもそうですが、自分のコアな部分を語れるようになるには場の心理的な安全性が必要だし、自分が話すことよりも、まず相手の言うことをちゃんと聴いて受けとめることのほうが大切なんです。リア充だけどモラハラっぽい男性も、感情表現が不器用な非モテの男性も、根っこの問題は同じで、女性の言うことをちゃんと聴いていなくて、自分にとっての都合のいい面しか見ていない

明日香「ああ、でも女性の側も、というか、私もそうかもしれません……」

二村「だから読書会や対話のイベントは、感受性が近しい人と出会うためというより、人の話を聴けるようになるための訓練や、“同じ本を読んだり似た体験をしたりしていても、自分とはまったく違う感覚や意見をもつ人が世の中にはいるのだなあ” ということを知るためにやっています」

──明日香さんのお話や二村さんの分析をうかがって、婚活アプリでいくら条件を絞りこんでも、余暇に趣味のサークルで活動しても、価値観がピタッと合う相手を見つけるのは、なかなか難しいのだなと思ってしまいました。それでは結局、理想の結婚相手と出会うためには、どうすればいいのでしょうか。

二村「これも人によるんですけど、もしかしたら “理想的な結婚相手” という観念を、いったん捨てるのがいいのかもしれませんね。会話が噛みあう人のほうが楽しいのは確かだし、趣味が同じなら一緒にやることができますが、どんなに気があう相手でも、感性や意見が完全に一致するということはありえない。だから合う合わないで納得できるかより、ぜんぜん違うのに “そういう考えかたもあるのか!” と面白がってくれたり、譲れる部分は話しあって譲ってくれたり、こちらをコントロールしようとせず放っておいてくれたりする性質の人のほうが、明日香さんのようなタイプが家族になって一緒に生きていくには、居心地がいいんじゃないでしょうか。もちろん、こちらにも “違う感覚” や “違う意見” に対して、無理に妥協して合わせるのではなく、それをちゃんと受容できる器(うつわ)がないとダメなわけですが」

明日香「そうかもしれないです。同じ漫画を好きな人とほど、解釈の違いで険悪になったりすることがありますし」

二村「ただ、放っておいてくれる相手というのは、結婚しちゃってからはウザくなくていいかもしれませんが、恋愛の初期だと “私に関心がないのかな” って、寂しく感じてしまうことがあるでしょうね。好きになった相手なのに、お互い余計な期待をかけないですむというのは……」

── やっぱり難しいですね(笑)。

二村「いや、だからこそ、まず理想を捨てるといい。理想論での結婚像を持たないで、やっぱり女性こそ “いま現在の自分の欲望” と向かいあうべきなんです。

 僕の知りあいに、仕事は好きなんだけど結婚もしたいし、家庭を作る以上は、自分は女なんだから家事ができないと恥ずかしいから頑張る、そして理想の夫は仕事もできて優しい人で、家事もきっちり半分担当してほしいという、まあ非常にまじめな女性がいたのです。彼女が思い描いていたのは、仕事と結婚を完璧に両立させる、現代の働く女性の理想の姿ですね。そんな夫になれる男を見つけようとして、もちろん、なかなか出会えませんでした。

 ところが彼女はたまたま、ある男性と恋に落ちちゃって、その相手が無職だったんです(笑)。しかも、その男性は “一緒に住もう” って言い出した。さすがに “ヒモ志願かな、だったらヤバいな” とも思ったんですが、なにしろ惚れてしまったので、とにかく彼を自分のマンションに住まわせた。そしたら彼は家事を意外と一生懸命やるようになったので、生活全般のことを完全にまかせてみたら、彼女にとってメチャメチャそれが楽で(彼女も、彼の完璧ではない家事に神経質に文句をつけなかったようです)、仕事の能率も上がってどんどん楽しくなり、会社で出世したそうなんです

明日香「………」

二村「それで彼女は “本当は、自分は家事なんて全然やりたくなかった、仕事に生きたかったんだ” という欲望に気づけた。相手に対しても自分に対しても理想で考えず、かと言って妥協をしたわけでもなく、そのときの流れを見て、やりたいことを取ったんだと思います。そうしたら、たまたま相手と自分とのベストな関係が作れた。彼もひとりのときは汚い部屋で平気な人だったらしいんだけど、きっかけがあったから変われたんでしょう。その変化も、たまたまだったのかもしれませんけど。

 欲望というものは、そのとき、そのときの愛する相手や自分の年齢によって変化したりもしますからね。だから、その2人も将来どうなるかはわかりませんが。なんにせよ、あらかじめ決めつけておかないほうがいい