10人中6~7人は症状を起こす可能性がある

 さらに美容院脳卒中症候群は、首の後屈という姿勢を続けると、美容院以外の場でも起こりえるということも覚えておきたい。

歯科での治療では長時間にわたって上を向く状態になりがちですし、電球の交換も、高齢者などは手間取ることで長時間、同じ姿勢をとりがちです。イスにもたれての居眠りや、映画館での映画鑑賞、目の前の草や木を刈ろうと、顎を上げて首が後屈したことで発症したケースもあります」(遠藤先生)

 家庭での注意点も聞いてみた。

天井の電球を取り換えるときには足場に注意してください。ソケットにぎりぎり届くような足場でなく、高さに余裕がある足場を用意して、上を向く姿勢を取らなくていいようにしてから交換するようにしましょう。

 映画館では首に負担なく見られるような、スクリーンから離れた席に座ることです。草刈りではこまめに移動し、手元の草だけを刈るようにしてください。遠くの草を刈ろうと手を伸ばすのは避けましょう。顎が上がり、首を後屈させることになるからです」(遠藤先生)

 ちなみに、めまいや吐き気、しびれを感じる前に“フワッ”“クラクラ”とする微妙な不調を感じたら要注意、と遠藤先生。これらは美容院脳卒中症候群を発症する前兆だからだ。さらに手足にしびれがきたら梗塞になっている可能性が高い。美容室なら迷うことなくシャンプー中止を申し出て、家庭だったら即、楽な姿勢をとるようにしたい。

「先ほども述べましたが、美容院脳卒中症候群での症状は大半が一過性のもので、血栓が飛んで脳梗塞を起こすようなことはごくごくまれです。だた、椎骨動脈が生まれつき狭い人が意外と多く、左右で太さに差がある人は全体の6~7割もいます。お店に10人のお客様がいたら、6~7人は症状を起こす可能性があるということです。実は私も、美容室での仰向けのシャンプーは、クラッとする感じがして苦手ですね(笑)」(遠藤先生)

 重篤な症状に進行したり、後遺症が残ることはまれだというが、2016年にはイギリスの美容院でシャンプー中に小脳梗塞を発症、裁判で美容院側に1300万円もの損害賠償を命じる判決が下った例もある。であれば、予防法を知っておくに越したことはない。

 #2の記事(10月9日12:00公開)では、予防法や対処法を遠藤先生に詳しくレクチャーしていただこう。

(取材・文/千羽ひとみ)

〈PROFILE〉
遠藤健司(えんどう・けんじ)先生
東京医科大学准教授。同大卒業後、米国ロックフェラー大学留学(神経・生理学)、東京医科大学茨城医療センター整形外科医長を経て、2007年に東京医科大学整形外科講師、2019年より准教授を務める。