症状が改善しない場合は脳神経外科を受診して
さて、ノドボトケの周りを走るもうひとつの血管である頸動脈の梗塞がマヒや言語障害を引き起こすのに対し、椎骨動脈の圧迫が原因で起こるこの症状では、重い後遺症が残ることはほとんどない。だが、万一、美容院やヘッドスパから帰宅してもめまいや吐き気、手足のしびれといった症状が残ったら、どうしたらいいのだろう?
「そうした場合は脳神経外科を受診してください。重心振動計というめまいの性質を診断する装置での検査や、血流を診断するMRI検査が行われ、必要があれば脳の血流をよくする薬の服用や点滴、血栓ができていればそれを溶かす薬などを使って治療します。原則、脳梗塞の治療と同じです。治療期間は症状によって異なりますが、数週間から半年程度といったところです」(遠藤先生)
上を向いての吐き気やめまい、手足のしびれは実は大昔から報告あり
こうした美容院脳卒中症候群、“美容院”とあるだけについ最近になって発見された症状と思いきや、上を見上げ続けると吐き気やめまいを起こす現象は、19世紀の昔から報告されていたという。
「1817年、フランス人作家のスタンダールがイタリアに旅行中、フィレンツェのサンタ・クローチェ聖堂内のフレスコ画を鑑賞しているうちに、感動とともに突然めまいと動揺に襲われてしばらくぼう然としてしまったと、自著の『イタリア紀行』に記しています。以来、作家の名を取って『スタンダール症候群(Stendhal syndrome)』と呼ばれていますが、これと美容院脳卒中症候群は同じものだと思われます」(遠藤先生)
近年ではイタリアの某教会で同じく吐き気やめまい、しびれで倒れる観光客が急増。現地では一時、「メディチ家の呪い」とまで言われ、話題となったという。
遠藤先生が調べたところ、壁画や彫像はみな見上げるような位置にあったとか。つまり、教会自慢の美術の数々を鑑賞するには首を後屈、すなわち上を向いて椎骨動脈を押しつぶす姿勢を長時間とらなくてはならなかったことが判明した。教会での観光客の突然の不調は呪いなどではなくて、美容院脳卒中症候群を起こしていた可能性が高いのだ。