首の後屈が他の症状も誘発する
美容院脳卒中症候群の原因である首の後屈は、ほかの病気を引き起こす要因となりうるというから油断できない。遠藤先生の本来の専門分野である整形外科の分野にあたる、頸椎ヘルニアもそんな症状のひとつだ。
「これは頸椎の椎間板の内部が飛び出して神経組織を圧迫。手足の痛みやしびれ、マヒなどを起こしますが、シャンプー時の首の後屈は、この病気も誘発する可能性があります」(遠藤先生)
さらには首の後屈は、美容師さん自身や私たち自身にも影響を及ぼしているという。
「美容師さんがカットするときや、私たちがパソコンに向かうときにも、顎を突き出した姿勢になりがちです。顎を突き出す姿勢はすなわち首を後屈させることですから、こうした姿勢を長時間続けると美容院脳卒中症候群だけでなく、頸椎ヘルニアをも誘発することになりかねません」(遠藤先生)
このように、首の後屈は整形外科的見地からも決していいもではない。
「美容師さんも私たちも、30分に一度は後屈しがちな首筋を逆方向に伸ばすストレッチをしましょう。背筋が弱ると顎を突き出す姿勢になりやすいので、背筋を鍛える筋トレもいいですね。要は姿勢を正しくし、ほどよく筋肉を鍛えることです」(遠藤先生)
予防法や対処法を覚えておくことで、美容院でのシャンプータイムをより安全に、もっと気持ちいいものに──。
(取材・文/千羽ひとみ)
〈PROFILE〉
遠藤健司(えんどう・けんじ)先生
東京医科大学准教授。同大卒業後、米国ロックフェラー大学留学(神経・生理学)、東京医科大学茨城医療センター整形外科医長を経て、2007年に東京医科大学整形外科講師、2019年より准教授を務める。