西洋アンティークの本物に出合える! 研究者も注目

バッスルドレスの内側。衣服を分解して、こうした縫製技術まで調べてしまうのが長谷川さんのスタイルだ

 衣服を実際に分解して調べてみることで、ファッション史の研究者とはまた異なる、長谷川さんならではの発見を発信してきた。アンティークファッションをコレクションしてSNSで発信していくことで活動の幅も広がり、プロの研究者とも情報交換するようになってきたとのこと。

「研究者の方からも、“本物を手に取って調べられるのは貴重な機会”と役立ててもらっています。博物館や美術館でも、なかなか本物の衣服に触れる機会は少ないので、史料的価値も提供できているのかなと。他には西洋ファッションや、映画や舞台が好きな方も私の『半・分解展』に来ていただいています」

 所蔵のコレクションを展示する『半・分解展』は2016年に始め、これまでに東京だけでなく京都・大阪・名古屋・福岡でも開催してきた。2022年は東京と福岡で開催。服飾の専門学校や公共施設を借りつつ、長谷川さん制作の試着サンプルで当時の着心地も体感できるものに

「私が昔の衣服を手に取ってみたときの感動を少しでも伝えられれば、という気持ちで始めたのが『半・分解展』です。ファッション業界や研究者の方々の協力もいただいて、継続的に開催できるようになりました」

紳士服の原点は1666年のイギリスにあり

衣装に付随するアクセサリーも集まる。もちろん本物だ

 こうして服飾史にかかわる仕事や、ファッション業界で収集の成果をプレゼンする仕事も受けるようになり、フリーランスで幅広く活動中。しかし長谷川さんには、コレクションを続ける中でひとつの目標があるそうだ。

「今は18~19世紀の衣服が多く集まっていますが、スーツの原点になった17世紀イギリスのチャールズ2世時代のファッションに出合いたいです

 1666年10月7日に国王チャールズ2世が『衣服改革宣言』を発します。今後はこれまでの宮廷衣装とは違う、新しい衣服を着用するというものでした。服装の簡素化を意図したこの宣言で、貴族のファッションに現代のスリーピーススーツの基本スタイルが生まれました。

 例えば派手に見える18世紀のベストも、見えない背中や袖には刺しゅうのない薄い生地を使っていて、現代と同じ発想で作られています。デザインはまるで違いますが、ロココ時代のアビ・ア・ラ・フランセーズも、現代のスーツと同じく上着・ベスト・ズボンで成り立っているんです」

 チャールズ2世の衣服改革宣言がスーツの基本スタイルを作ったことにちなみ、1666年がスーツ誕生の年、10月7日はスーツの日とされる。フリーの研究家として独立した2016年10月はこの宣言から350周年でもあった。

 長谷川さんは今も、ファッション業界に進む原点だったスーツへの興味を忘れていない。貴婦人の華やかなドレスの陰に隠れていたかもしれない男性服のジャンルにも着目し、コレクションと研究を続けてきた。紳士服350年の歴史を体感し、現代に蘇らせる取り組みは続く

(取材・文/大宮高史)