いつの間にか、若手と思っていた山寺宏一まで60歳になっていた

羽佐間道夫さん 撮影/近藤陽介

──現在は、声優さん同士仲が良い印象があります。当時はどうでしたか?

「旅行するくらいですからね。時代は変わりましたけど、当時も仲はすごく良かったですよ。声優界は昔から上下関係があまり厳しくはありません。でも、若山弦蔵(※3)は、歳下とはあまり口もきかなかったかな。ぼくなんかは親しかったから“弦ちゃん、そこがいけないんだよ”とか軽い口調で話すんだけど、ショーン・コネリーを吹き替えているときのようなダンディーな低音をきかせて“バカ野郎、これでいいんだよ”って(笑)」

(※3)若山弦蔵(わかやま・げんぞう):『007』シリーズなどで知られるショーン・コネリーほか、数多くの吹き替えを担当した声優。落ち着いた低音域の声を生かしてラジオやナレーターとしても長く活躍した。2021年没。

「ぼくは若い人たちとワイワイやるのが好きだから、上下関係は特に意識しません。少し下の世代の大塚芳忠(※4)や堀内賢雄(※5)、大塚明夫(※6)とかとも、よく一緒に仕事をしているしね」

(※4)大塚芳忠(おおつか・ほうちゅう):1954年生まれ(68歳)。1980年代から吹き替え、アニメーションを問わず活躍を続ける声優。ジャン=クロード・ヴァン・ダム、ジェフ・ゴールドブラムほか多くの俳優の吹き替えを専任している。ナレーションの担当も多い。
(※5)堀内賢雄(ほりうち・けんゆう):1957年生まれ(65歳)。チャーリー・シーンやブラット・ピットなどの大物俳優の持ち役が数多いベテラン声優。アニメーションやナレーターとしても1980年代から現在まで絶え間なく多数出演を続けている。
(※6)大塚明夫(おおつか・あきお):1959年生まれ(62歳)。声優・ナレーターとして活躍中。吹き替えではスティーヴン・セガールやニコラス・ケイジなど。アニメーションではブラック・ジャックや『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』のバトーなど、ダンディーな役が多い。故・大塚周夫は実父。

──そのお三方も、声優界では、すっかり大御所の域に入っていますね。

「そうか、ぼくのすぐ下の世代の声優は、いまやほとんどいなくなってしまったからね。彼らはぼくと年齢が近いように見えて、実はけっこう飛び越えているんです。みんな60代半ばから後半ですからね。古谷徹(※7)もそうでしょう。彼らの下が山寺宏一(※8)の世代になるのかな。山寺だってもう60歳を超えているけどね」

(※7)古谷徹(ふるや・とおる):1953年生まれ(69歳)。『巨人の星』の星飛雄馬や『機動戦士ガンダム』のアムロ・レイなど、アニメーションの当たり役を数多く持つ人気声優。
(※8)山寺宏一(やまでら・こういち):1961年生まれ(61歳)。「7つの声を持つ男」といわれ、あらゆるキャラクターを演じきる人気声優。吹き替えではウィル・スミスやエディ・マーフィほか持ち役多数。アニメーション、俳優、ナレーター、ラジオパーソナリティーなど多彩に活躍中。

今の若い声優には、うまい人がたくさんいます。ぼくなんかとてもついていけない。芸達者だし、器用です」

──エンターテインメントに慣れている感じですね。声の仕事はもちろん、歌ったり踊ったりする人も多いです。

むしろ、そういったことができないと生き残るのが難しい時代になりました。山寺なんかあらゆる声を出してみせるし、歌もうまい。すごいよ。だけど、見えないところでは相当、練習をしているし、苦労もしていると思う。彼はぼくが設立に携わった俳協(東京俳優生活協同組合)で育った子だし、ぼくを慕ってやってきたから親近感もあります。“羽佐間さんの年齢を超えても続けるのがぼくの夢です”と言ってくれて、何かと声をかけてくれる。嬉しいよね