もう一度、人生を与えられたら

羽佐間道夫さん 撮影/近藤陽介

「ぼくはこの先、どこまでやれるかわからないけれども、現在のところは元気にやれています。医者からは、“若いつもりでいるかもしれないけど、89歳だからね。無理はしないでよ”と言われていますけど(笑)。車椅子になったら引退かな。引き際はきれいにしたいから。でも、自分で自分を元気づけられるところは、ぼくのいいところだと思います。足腰だけは達者でいられるよう、毎日のようにジムにも通えていますし。

 前回お話した竹本越路大夫さんは、いまわの際(きわ)に、“もう一生くだされ。ならば、もう少し前に突き進みますんや”と言って亡くなったそうです。すごい言葉ですよね。浄瑠璃の世界では“右にいずるものなし”と言われ、誰もがすべてを極めたと思っていた人が、“私にもう一度人生をください”と言うんだから。やはり、人というのは、ずっと追い求め続けると言うか、勉強し続けるものなのかなと思います」

──では、羽佐間さんにも、もう一生分くらい元気に過ごしてもらいましょう。

「いやいや、もう一生なんて無理です。しかし、声優として、人間の感情表現をもっと深みのあるものにしていけるよう、やれるところまでやっていこうと思いますよ

(取材・文/キビタキビオ)

《PROFILE》
羽佐間道夫(はざま・みちお) 1933年、東京都生まれ。声優・ナレーター事務所ムーブマン代表。舞台俳優を志して舞台芸術学院に入学。卒業後、新協劇団(現・東京芸術座)に入団した。その後、おもに洋画の吹き替えの仕事から声優業に携わるようになり、半世紀以上に渡り第一線で活躍。『ロッキー』シリーズのシルベスター・スタローンほか、数々の当たり役を演じている。アニメーションやナレーターも多数こなす。2001年に第18回ATP賞テレビグランプリ個人賞(ナレーター部門)、2008年に第2回声優アワード功労賞、2021年には東京アニメアワードフェスティバル2021功労賞を受賞。自らプロデュースし、人気声優も出演するイベント「声優口演」の開催を15年にわたり続けている。