“ゴミ屋敷お片づけ芸人”がいるのをご存じですか? その名も、“お片づけシバタ君”(以下、シバタ君)こと柴田賢佑さん。『六六三六(ろくろくさんじゅうろく)』というコンビ名で活動しながら、生前整理、遺品整理、ゴミ屋敷の片づけなどを行う会社に勤務し、日々、壮絶な現場と向き合っています。

 インタビュー第1弾では、芸人をしながらもこの仕事を始めたワケや、一般人は知らないゴミ屋敷の種類、害虫駆除に苦戦したエピソードなどを語っていただきました(記事→“ゴミ屋敷片づけ芸人”柴田賢佑に聞く! 仕事を始めたワケと壮絶現場の実態「冷蔵庫を覆うほどのGの集団が……」)。第2弾では、害虫駆除を上回るワースト現場での苦い思い出や、生前整理のコツ、シバタ君の今後の目標について、詳しくお聞きします!

社員が全員一致でワースト1に挙げた“犬猫屋敷”は「目の前に紫色が広がった」

──インタビュー第1弾では、ゴキブリが大量発生した現場での衝撃エピソードを明かしていただきましたが、ゴミ屋敷の中でも、忘れられないような強烈な家はほかにありましたか?

「この前、社員に“どこがいちばんつらかったか”ってアンケートを取ったんですが、答えが全員一致したんですよ。多頭飼育の『犬猫屋敷』で、近隣から苦情が来て任意売却(※)になった物件。そこは両親が亡くなったあとに50代の息子さんが住んでいて、猫を拾ってくるけれど、飼育もできなければ片づけもしない。まず悪臭がひどいんですよね。なんだろうあの臭いは、動物園でもないし、肥溜めでもないし……(笑)。ゴミが腰ぐらいまで積み上がった中でゴミの山をかき分けているときに、ペットの糞が出てきたりとかもするんですよ

(※ 任意売却:住宅ローンの借り入れ先である金融機関などの債権者に同意を得て、ある程度所有者の希望条件で一般市場にて不動産を売却すること)

──想像するだけでも、ちょっと気持ち悪くなりますね……。

「息子さんが“そこは猫たちのトイレの部屋なんです”っていう場所に入ったら、胸より上くらいまでフンの山。実際にはそんな色ではないのに、部屋に入った瞬間、目の前にガバーッて紫色が広がっているように感じましたね」

──悪臭で、頭のほうも感覚が鈍ってしまうんでしょうね。

「防塵マスクも歯が立たないくらいの悪臭でしたね。でも、いちばん腹が立ったのは、窓を開けながら作業をしていたんですが、飼い主の方が“猫が逃げたら逃げたでいいですから”って言ったことです。無責任に猫を集めてゴミ屋敷にして、劣悪な環境で育てているっていう状況も含めて、ワースト1の現場でしたね」

片づけ時、防護服に身を包んだシバタ君。気合いを入れて臨むも、悪臭やゴミの量にクラクラする現場も…… 写真/本人提供 

想像を超える孤独死の現場「頭皮が床についていた」「浴槽で溶けて液体に」

──ゴミ屋敷と同様に、孤独死などの現場における遺品整理も心情的に大変だと思います。

「孤独死だと、呼び方的には遺品整理にはならないんですよ。お片づけになるんです。親族の方から依頼されると遺品整理になります。通常は、警察などが死亡を確認した後に消毒を行うのですが、していないこともあるんですよ。さらに、不動産が腐乱現場だと明かさないで依頼してくる場合もあるので、そうするとこちらも装備が整ってないまま作業をします。人が亡くなった後の腐乱臭って、やっぱり遺伝子的に受けつけにくい部分がありますね。だんだん自分の目の焦点も合わなくなってくるし、いつもは明るいスタッフたちも、腐乱現場ではどんどんネガティブなほうに感情が持っていかれるので、休憩を多めに入れたりしています

──片づけの現場の中に、いろいろな人生が凝縮されていそうですね。

「そうなんですよね。孤独死のあとに消毒されてない部屋には、虫もたくさんわいているんです。僕が行った現場では、床に頭皮がそのまま残っていたこともありました」

──頭皮、ですか……!?

「そうなんです。髪の毛が生えた状態の頭皮が、ズルって剥(む)けたのか、そのまま床についていましたね。そこの現場は、バルサンを焚(た)いたのか床は真っ黒で、一面に遺体にたかっていたコバエがいたんです」

──視覚的な記憶って残りそうですが、シバタ君は大丈夫でしたか。

「やっぱりその夜は精神的にぐったりしますね。鼻の奥に臭いがずっと残っている気がして、シャワーを浴びても全然スッキリしない。でもお酒を飲めば、次の日はケロッとしてます(笑)」

「とはいえ、ディープな現場にあたった日は食欲がちょっと落ちたりもしますね」と顔をしかめる 撮影/吉岡竜紀 

──壮絶な現場でも、次第に慣れていくのでしょうか。

「片づけの先輩から聞いた話なのですが、追い炊きをずっとしたまま浴槽で亡くなってしまった方がいたんです。遺体が全部溶けてしまって、ピンク色の液体になっていたそうなんです……。依頼を受けたときには、“なにか異臭がする”っていう話だったので、まさか亡くなっているとは思わなかったみたいなんですよね」

──(絶句)。衝撃的な現場を目にしたことで、生前にいろいろなものを片づけておこうと思うようになりましたか?

僕は完全にそう思うようになりましたね。死はいつ来るかわからないですけれど、必ず訪れる。僕は子どもがいるのですが、残される子どものためにも絶対に片づけはしないといけない。ヘタすりゃミニマリストじゃないですけれど、必要最低限、これさえあればいいよっていうくらいにしたいなと思います」

親世代の生前整理を進めるためには? 片づけの仕事と芸人は両立していく?

──物を大事にする価値観を持ちがちな親世代を説得するためには、どうすればよいですか。

生前整理を進めるには、子どもから親に“あなたが死んだときに困るのは私たちだよ”って伝えることが大事ですね。生前整理っていう言葉だけを伝えると、やりにくいんじゃないかなって思うんです。例えば、単純に“一緒に片づけよう”って言ったり、家族で集まって“ちょっと片づけようか”と誘ってみる。フランクな感じでやったほうがいいんじゃないのかな。 “不用品を買い取ってくれるかもしれないから、プロの人も呼んでおいたよ”って片づけの業者を呼んでおけば、親からしたら“全部を生前整理していくのではない”、“お金に代わるかもしれない”って感じて安心できると思いますよ

──これまでの現場で、不用品だと思ったら、実は高価なものだった経験はありますか?

「“コンピューターゴミ屋敷”みたいな家の片づけをしたときに、鉄の塊みたいなものが出てきたんです。みんなは“ただの鉄ですよ”って言ったんですが、試しにオークションサイトに出品したら、230万円で落札されたんです

──貴重なものだったのですか?

イギリスで、ビートルズか何かのコンサートホールで使われていたオーディオホーンスピーカーだったんですよ。でも片づけをしていたら、1個1個調べる暇はないので、ピンときたものだけを調べて出品しています。そこはもう感覚でしかないですね」

──逆に、片づけでよく出てくるものってありますか?

片づけあるあるですが、天袋を開けたら、お父さんが持っていたエッチなビデオが出てきたっていうのはありますよ(笑)。お父さんはいろんなところにビデオを隠しますからね。押入ダンスってあるじゃないですか。実は引き出しが2段になっていて、ぐっと持ち上げるともう1個引き出しが出てくる。そこにはやっぱりビデオが入っていますね(笑)」

──物をためこんだり、ゴミ屋敷にしてしまう人の特徴ってありますか?

タバコや酒などをはじめ、嗜好品が多い人。あとはエロですね。性欲の強い人(笑)。男性の場合は収集癖があると、部屋の中にいろんなものがバンバン詰まっているんです。でも本人は“絶対にゴミじゃない”って言う人が多い。女性の片づけられない人は特に性欲が強いというか、部屋からほぼ9割の確率で、必ず大人のおもちゃが出てきますね」

──ある意味、生命力のある人が、ゴミ屋敷を生んでしまうのかもしれないですね。

あと女性の場合は、使用ずみの生理用品がものすごく出てきやすいです。だから女性のゴミ屋敷の片づけは精神的にきついですね……。ゴミの中から、絡まったパンティストッキングが取れないで出てくることも多いんですよ」

──お酒などの趣向品の影響で、片づけが面倒くさくなるんですかね。

「お酒の場合は、酔っぱらって寝ちゃったから片づかないっていうのはなんとなく理解できる。でもエロで考えると、エログッズの隣には使用ずみティッシュがあるんですよ。だから、体力が尽きて片づかないのかなって。で、またもう1回してとかね(笑)。あと、タバコを吸われる方って、だいたいがお酒もセットなんですよね。欲望のまま生きているというか……」

──人間の人生が凝縮されたような仕事ですが、片づけの仕事を続けてきて何か意識が変わりましたか?

「片づけや整理をしている最中は、“人の家の物を減らしていって大丈夫なのかな”って不安がすごくあったんです。でも、お客さんからお礼の手紙やお歳暮が届くことがある。そうすると、“僕たちがやってきたことは間違ってなかったんだな”みたいに安心できましたね」

「なんだかんだ、やりがいを感じられています」とキラキラとした瞳で語ってくれた 撮影/吉岡竜紀 

──失礼ながらに最後にお聞きしたいのですが、芸人ではなく片づけの仕事を本職にしようと思ったりはしなかったのですか?

「片づけの仕事のほうで稼げているのだったら、芸人をやめる必要はないんじゃないって思うんです。太田プロには、ゴミ清掃芸人として活躍している、お笑いコンビ『マシンガンズ』の滝沢(秀一)さんという芸人がいるのですが、彼はゴミ清掃の経験を生かして、環境大臣だった小泉進次郎さんや都知事の小池百合子さんとも対談をしている。僕も、ゴミ屋敷の片づけや遺品整理の仕事の経験を生かして、滝沢さんと一緒に、動画配信やイベントをやっていきたいですね。目標は、“芸能界でゴミに詳しいと言えば太田プロの芸人だよね”って言われるようになることですね!

(取材・文/池守りぜね)


【PROFILE】
柴田賢佑(しばた・けんすけ) ◎1985年12月17日生まれ。北海道出身。アイスホッケーの選手を志した学生時代から一転、上京しお笑いの道に。お笑いコンビ『六六三六』として活動するかたわら、生前整理、遺品整理、ゴミ屋敷の片づけなどを行う業者に勤務し日々、さまざまな現場に出向いている。“お片づけシバタ君”としてブログやSNSなどで情報を発信中。

お片づけシバタ君のブログ→https://ameblo.jp/atama71/