教材研究や保護者対応は自主的な仕事? 文科省に問いたい
──裁判が終わったあとはどんな活動を考えていますか?
田中:気落ちしている暇はありません。判決が確定したことを利用して文部科学省を追及する必要があるでしょう。さいたま地裁、東京高裁判決は、私が午後5時以降にしていた仕事を「校長から命じられた仕事」と「教員の自主的・自発的な勤務」とに分けました。
……翌日の授業の準備(1教科5分)、週案簿の作成、通知表の作成、校外学習の準備
・自主的・自発的な勤務(労働時間として認めない)
……ドリル・プリントの丸つけ、作文へのペン入れ、教材研究、教室の整理整頓、掃除用具の確認、落とし物の整理
田中:授業をするに当たって、あらかじめ教える内容を把握する作業の教材研究は「自主的・自発的な勤務」とされました。翌日の授業の準備も、1教科につき5分を超える部分は「自主的・自発的」。そのほか保護者対応も、校長から命じられた仕事ではないとの判断が示されました。
文部科学省はこの判決についての見解を示すべきです。「自主的・自発的な勤務」だということは、やりたくなければやらなくてもいい、ということですよね。では、教材研究や保護者対応を本当にしなくてもいいんですか? 私は文科省にそう問いたいです。
660時間の残業が裁判所の認定では32時間に。今後の展望は
──さいたま地裁判決には以下のような記載もありました。《わが国の教育現場の実情としては、多くの教員が一定の時間外勤務に従事せざるを得ない状況にある。給料月額4%の割合による教職調整額の支給を定めた給特法は、もはや教育現場の実情に適合していないのではないかとの思いを抱かざるを得ない》
田中:提訴から言えば4年以上、地裁判決からは約1年半、文科省は現状を放置しています。勝訴、敗訴という判決の結果ではなく、判決文の中身をよく読んで、文科省に対応を迫る必要があります。
少し細かくなりますが、以下のことを知っておいてください。私は提訴前の11か月間に約660時間の時間外勤務をしていました。先ほども話したとおり、裁判所はその仕事の一部を「自主的・自発的な勤務」とし、正式な労働時間とは認めませんでした。また、「校長から命じられた仕事」と認めたものについても、その大部分は勤務時間内の空き時間に終わらせることができたはずだ、という認定をしました。その結果、実際には660時間あった時間外勤務は、裁判所の認定ではなんと32時間に減ってしまいました。
音楽や図工などの授業は担任とは別の先生が教えることがあります。その「空き時間」に大半の仕事はこなせたはずだ、と言うのです。私たち教員はトイレに行く時間も惜しんで仕事をしています。子育てに携わっている方ならわかると思いますが、子どもから目を離すことはできないのです。児童が下校したあとのわずかな勤務時間で莫大な仕事をこなし、それでも終わらないのでやむを得ず夕方5時以降も働いているのです。裁判所の認定は間違っています。
──やるべきことはたくさんあるんですね。
田中:教員のためのユニオンを作りたいという気持ちもあります。教員の残業や長時間労働をなくすために個別の事案を救済するということです。一方で、日本政府が対応しないならILO(国際労働機関)に訴える方法もあるのではないかと考えています。これからも教員の無賃残業や長時間労働を解決するための道を探っていきたいです。
──新たな裁判のほうは?
田中:もう少しお待ちください。私以上に深刻な長時間労働を経験した教員の方は勝訴する可能性が高いです。さらに言えば、たとえ1時間でも1分でも、違法な時間外勤務によって生活時間を侵害されること自体、本来あってはならないことです。新しい裁判は必要です。 新しく「田中まさお」裁判の原告になってくれる方を探したいです。ビッグなことを考えていますので、期待してください。
(取材・文/牧内昇平)
◎著者・牧内昇平Twitter→https://twitter.com/makiuchi_shohei