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埼玉県内のとある小学校で教える「田中まさお」さん(仮名)。全国の先生たちの“働きすぎ状態”を変えるため、たったひとりで裁判を起こしたことで大きな注目を集めています。でも、田中さんの本当の活躍の場は「法廷」ではありません。「教室」です。教員生活40年、教え子の数は約1000人。ベテラン先生がいま、伝えたいメッセージとは……。

社会

“教員の働きすぎ防止”のためのキーパーソンとは? 先生に残業代を求める裁判を起こした「田中まさお」さんに聞く

SNSでの感想
教科書を読む田中まさおさん=筆者撮影
目次
  • 先生の仕事は職員会議で増えていく
  • 2000年に職員会議の位置づけが変わった
  • 働きすぎ防止のカギは校長が握っている

 多忙化が心配されるにもかかわらず、残業代が出ない学校の先生たちの現状を憂いて、2018年、教員に残業代を求める裁判を起こした田中まさおさん(仮名)。前回は、田中まさおさんの日々の仕事を紹介しました。授業以外にも細かい仕事がたくさんありましたが、なぜ先生の仕事は増えていくのでしょうか? 田中さんに解説してもらいました。(以下、語り:田中まさお/聞き書き:牧内昇平)

【田中さんが立ち上がったわけや裁判を始めた経緯はプロローグ記事で詳しくお伝えしています→https://fumufumunews.jp/articles/-/23602

 ※2023年3月上旬、最高裁が田中まさおさんの上告を退ける決定を下しました。2018年9月から続いた裁判は、田中さんの敗訴が確定したことになります。こちらについては3月下旬配信の記事にて、詳述します。

先生の仕事は職員会議で増えていく

 はっきり言います。教員の仕事を増やしているのは、職員会議です。年度初めの4月には、3日連続くらいで職員会議を開き、新しく来た先生たちも含めて、その学校の指導のルールを周知します。例えば、「この学校では朝マラソンを毎日行わせています」とか、「トイレ掃除の手順はこうです」とか。職員会議を通過したらそのルールを子どもたちに守らせなければいけません。それが教員の仕事になります。

 昔は、清掃の指導なんて「はーい、掃除してきな」程度で終わりでした。今は掃除の手順やルール(帽子をかぶる、無言で掃除をする、終了時刻までしっかりやる、など)が細かく決まっています。校舎内を校長や管理職が見回っていて、子どもたちがしっかりやっていないと担任が注意されます。

教室の窓ふき掃除も田中まさおさんが放課後に行っている=筆者撮影

 学習にもさまざまなルールがあります。学年ごとの自宅学習の時間は全校で決まっています。学年×10分+10分です。1年生は20分、6年生なら70分の自宅学習をさせることが決まっていて、担任はそのぶんの宿題を毎日出さなければいけません。これも先ほど話した年度当初の職員会議で周知されました。

2000年に職員会議の位置づけが変わった

 職員会議で反対すればいいと思うかもしれません。しかし、現場の教員が反対しても、校長が「それでお願いします」と言えばそれで通ってしまいます。例を挙げます。私が裁判を起こしたころ勤めていた学校では、毎月1回「登校指導」という仕事がありました。教員が校門の外に立ち、子どもたちの登校を見守る仕事です。登校指導の日は出勤が1時間早くなります。私は'18年の春、職員会議で手を挙げて「登校指導をやるなら調整時間をください」と発言しました。出勤が1時間早くなるぶん1時間早く帰らせてください、という意味です。そう提案したら、校長が「それは無理です」と言いました。この校長のひと言で、私の意見は却下されてしまいました。

 職員会議は本来、教員たちが話し合いで物事を決め、校長が会議を尊重していました。だから先ほどの登校指導にしても、教員たちが「それには無理がある」と言えば学校全体のルールにはなりませんでした。'00年に学校教育法施行規則が改正され、職員会議の位置づけが変わったのです。

改正学校教育法施行規則

1.小学校には、設置者の定めるところにより、校長の職務の円滑な執行に資するため、職員会議を置くことができる。
2.職員会議は、校長が主宰する。

 この改正で、教員同士の自主的な話し合いの場だった職員会議は、「校長のため」の会議になってしまいました。現場の教員にはもう、決定権がありません。

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