若い感性を信じ、若手チームに商品開発を一任「スベッてもいい」

 もともと、この“バズ商品戦略”を始めたのは台湾の『ピザハット』。ドリアンのピザやラーメンを乗せたピザなど、SNSでは「また台湾がやらかした」とネタのように扱われていました。

「2年ぐらい前に行った調査で、『ピザハット』ブランドが世界的に“古臭い”と思われていることがわかってきて、企業として若返り、そのイメージを変えていきたいと考えました。そこで昨年度から、“Younger and Everyday”をスローガンに掲げ、より若い方に日常的に食べてもらおうという戦略を始めたのです」(小田さん)

 そこで白羽の矢が立ったのは、篠﨑さんも所属する同社のTikTok担当チーム、若者4名。抜てき理由を小田さんに聞くと、

「私は44歳。ターゲット層と世代が違うという感覚がありましたし、私では何がバズるかもわからない。普段からSNSに慣れていないわれわれが、変に若者世代に歩み寄って研究したところで、絶対に成功しません。ならばもう、うちの若い子たちを信じようと。“別に売り上げアップが目的じゃないから肩の力を抜いて、たとえ企画がスベッてもいいから頑張ってほしい”と託しました」(同)

小田さんが放った冗談に爆笑する篠﨑さん。おふたりの仲睦まじい様子から、風通しのよさが伝わってきました

 このTikTokチームはSNS専門のメンバーではなく、企画の篠﨑さん、デジタル及びSNS担当者2名、商品開発者1名からなる、各課の若手からの選抜。とにかく“バズる商品”を生み出すため、日夜、好きと嫌いで分かれる食材の「アリ、ナシ」論争を繰り広げ、酸味系、生もの、レバー系、魚卵系、スイーツ系、グミ、飲み物系など100以上のアイデアを出しました。アイデアの中から現実的に発売できるものはあるのか試作を繰り返し、商品会議に提案。そこで、ダントツで選ばれた食材が「パクチー」だったのです。

パクチーは遺伝子的に世界の7人に1人が苦手だと言われており、まさに好きと嫌いがハッキリ分かれる食材。ネット上でも論争が起きてくれるのでは、と考えました。そもそもトムヤムクンやヤムウンセンでも添え物のイメージですが、開発を続けていくうちに、“この添え物のパクチーを、いっそのことメインにしては”という方向性に舵を切り、1枚あたり3株ものパクチーを乗せることにしました」(篠﨑さん)

「実は、私もパクチーが苦手で食べられません。ですが社内で試食会を開いたところ、ビジュアルへの“なんだこれは”という反応とともに、“おいしい!”の声も多く挙がったのです。そこで私も膝を打ち、自分が食べるのはためらわれるけれどOKを出しました(笑)。

 案外、明らかにおいしそうなものはバズらないんですね。バズるのはむしろ、賛否の議論が巻き起こりそうなもの。世界最大のピザチェーンといえど、日本では『ピザハット』は3番手。ゆえにチャレンジャーの姿勢で施策を展開できる強みもあったかもしれません」(小田さん)

それにしても、この盛りっぷり、まさに草です