生涯、小学校の担任として

 最初は中学校の教員を目指していましたが、今思えば、中学校と小学校の担任は役目が異なっていると思います。中学校の担任は生徒との対話を通して、将来の夢やどういう風に生きたいかを考えさせます。小学校の担任は子どもの心そのものの成長を見守ります。そんな違いがあるのではないでしょうか。

 中学校の場合、担任と言っても教えられるのは専門の教科だけです。小学校では専科を除いてすべての教科を教えるので、そのぶんクラスの子と一緒にいる時間が長くなります。私の場合、30人くらいの子どもたちと一日じゅう一緒にいて、一人ひとりの心を丁寧に見つめる仕事にとてつもない魅力を感じています。

 私は職場結婚です。パートナーの淑絵さんは同じ小学校の音楽の教員でした。専科なので同時期にたくさんのクラスを教えていたのですが、私のクラスだけ子どもたちがとても楽しそうにしているのに驚いたそうです。「担任の先生はどんな教え方をしているのだろう?」と興味を持ち、それがきっかけで私に話しかけてくれて、交際が始まりました。その後ずっと、私の最大の理解者は淑絵さんです。管理職にならないかと声をかけられたこともありますが、淑絵さんが「あなたは一生、担任を続けるべき」とアドバイスをくれました。教員の長時間労働に対してひとりで裁判を起こしたときも、ずっと味方でいてくれました。いちばん大切なのは命ですが、二番目は家族です。私はそう思っています。

さいたま地裁の法廷に向かう田中まさおさん(画像左)。家族の支えで裁判を続けることができたと言う=2019年5月、筆者撮影

 今の教員たちは長時間労働を強いられています。働きすぎで犠牲になるのは本人の生命と家族です。この状況を改めなければいけません。公立学校の教員には「給特法」が適用され、残業代が出ません。その代わりに給料の4%の「教職調整額」が支給されます。自民党は今、4%では実際の労働時間に合わないとして、教職調整額を10%以上に引き上げるように提案していますが、調整額を増やしても長時間労働は解決しないでしょう。

 日本中どこの学校に行っても、夕方5時以降も教員が学校に残っていると思います。その教員たちは自主的に残っているのではなく、「与えられた仕事」をするために残っているのです。しかし、この与えられた仕事は労働に当たらないと評価されています。最初にやらなければいけないことは、夕方5時以降の仕事を当たり前に「労働」と認めさせることです。そして、今の教員の仕事が勤務時間内に終わる量と内容なのかを吟味し、終わらない分は教員の仕事から切り離すことです。

(取材・文/牧内昇平)

【第2次訴訟の原告を募集中】

 田中まさおさんの裁判を支える「田中まさお支援事務局」は'23年4月23日、第2次訴訟の原告の詳しい募集内容を公開しました。主なポイントは以下の4点です。

《原告の応募条件》
1. 個人的な利益ではなく、本訴訟の趣旨に賛同してくれる人
2. 給特法が適用される、公立学校の現役教員もしくは元教員の人
3. 長時間労働を理由とする国家賠償請求を行いたい人
4. 正式に原告となる場合、訴訟費用として20万円を負担できる人

 田中まさお支援事務局によると、すでに教員を退職した人でも、時効(原則3年)が過ぎていなければ裁判を起こせます。また、裁判の費用については、クラウドファンディングなどで寄付を募るため、個人の負担は20万円に抑える、としています。7~8月の夏休み期間に説明会を開き、そこで弁護士や支援事務局のメンバーたちが面談を実施します。詳細は田中まさお支援事務局のTwitterアカウントなどへ。

◎田中まさおさん公式Twitter→https://twitter.com/trialsaitama
◎田中まさお支援事務局公式Twitter→https://twitter.com/1214cfs
◎著者・牧内昇平Twitter→https://twitter.com/makiuchi_shohei