アリのように一歩ずつ変わっていくこと

──自分の頭で考えなきゃいけないと思うと大変なことと感じてしまいますが、「つまらないことを面白くする」と考えると、前向きな気持ちになります。おふたりのように新しい発想やイノベーションを生むために、日々の過ごし方のヒントを教えてください。

横井 どれだけアンテナを張るか。いろいろなことに興味を持つことは非常に大事。単純ですけれど、そういったものを常にどうやったら面白くなるか考えると、将棋で先の手が読めるような感じで見えてくるんですよ。車の運転も最初はこれがハンドル、これがブレーキ、これがアクセルと習いますが、慣れてきて運転できるようになると、人が飛び出した瞬間に、これがハンドルなんて考えずに、反射的にブレーキを踏みますよね。それと同じことで、訓練すると情報が回ってきた瞬間に組み合わせたものがポッと浮かんでくる。僕は練習次第で誰でもできると思っています。

唐川 アンテナを張るということ、プラスの訓練ということともつながりますが、新しい行動を取り続けることですね。どうしても人間は経験を積んだり、会社で上の立場に行くと耳に痛い批判を聞かなくなってくる。自分の楽なほうに行きがちですが、だからこそ、あえて苦手なこととか、自分が今まで避けていたことにちょっとだけ一歩を踏み出してみる。新しい要素も取り入れながら、自分の物の見方や行動を変化させていくことを意識していくのが大事だと思います。

──どうしても歳を重ねると、アンテナを張るのもちょっと面倒、身体も動かしづらいなと思ってしまいがちです。

唐川 だからこそ、いきなり大きくガラッと変化するのではなくて、アリみたいに一歩一歩変わっていくのです。5年後にこうなりたいと思っても、いきなりその未来が現れるわけではありません。人間は勝手には変わらないので、こうなりたいというイメージがあるなら、本当に一歩一歩、一日一日歩き続けるしかない。

 できることを継続してやり続けて、かつ横井さんがおっしゃったように、ちょっと遊びや工夫を入れることで、それが積み重なると、気づいたらとんでもない道に来ていたとか、たまたまいい方向にガラッと変わったということになると思うんです。大きく飛ぼうとせずに、毎日を大事にするということを僕は意識したいと思っています。

横井 チャレンジをするのは絶対大事。ただ、チャレンジする前に真剣にそのことについて考えてほしい。徹底的に考えて、最悪ダメだったらどうしようぐらいのところまで考えてやってほしいですね。ところが、ほとんどの人はやめちゃうんですよ。考えれば考えるほど失敗することを恐れてやらない人が99%じゃないですかね。

 だから、考えに考えて、最後はバカになってほしい。最後だけ、ちょっとバカになって思い切って踏み込む。その踏み込み方もどっぷりでなく、ちょっと踏み込む。それがコツです。どっぷり踏み込んで失敗すると、立ち直れないでしょう。10踏み込まないで、1か2か3くらいまでなら、失敗してもなんとかなるじゃないですか。その3は失敗してもいいやと思い切らないといけないんですよ。

唐川 最近、書店に行くと、なんとかのコツとか、なんとかの法則とか、なんとかが何分で終わるとかノウハウ系ばかり。知識としては必要だと思うんですけど、自分の足で動いてみることが、これからすごく大事になってくると思いますね。

横井 あと、新しいことをやるときには、やることを絞らないほうがいい。100くらい面白そうなことがあったら、それを5か10くらいまで、少しずつやってみることが秘訣です。どの成功者もそういうやり方をしています。失敗する人は必ず絞ってしまう。ひとつにすべてを賭けて大滑りしてしまうんです。だから、絶対絞らないでチャレンジしてみる。そのときに大事なのは、さっき言ったように、ちょっとやってみることです。もちろん実力もですが運も大事。ただ、実力がないと運はつかめないので、実力を蓄えておいて運をつかみましょう。

横井昭裕さん、唐川靖弘さん 撮影/岡利恵子

(取材・文/西野風代)


《PROFILE》
横井昭裕(よこい・あきひろ) 1955年、東京都生まれ。中央大学経済学部国際経済学科を卒業後、’77年、株式会社バンダイに入社。キャラクター玩具、コンピュータゲーム、ファンシー雑貨など、幅広いジャンルの商品開発に携わる。’86年、自分の力を試してみたいと思い、株式会社ウィズを設立。玩具やゲームソフトの企画・開発を手がける。’95年に「たまごっち」企画を発案した“生みの親”。現在、株式会社ワイプラス代表取締役社長。

唐川靖弘(からかわ・やすひろ) 1975年、広島県生まれ。外資系企業のコンサルタント等を経て、米国コーネル大学経営大学院にてMBA取得後、同経営大学院で初の日本人職員として勤務。グローバル企業本社との共同プロジェクトとして、アジア・アフリカの新興国において貧困層向けのビジネス開発に実践的に取り組む。組織や社会で楽しくイノベーションを起こす人材「うろうろアリ」育成のためのメソッドをまとめた書籍『THE PLAYFUL ANTS』を2022年末に上梓。現在、エッジブリッヂ合同会社代表。

『THE PLAYFUL ANTS- 社会を小さく楽しく変える越境型人材「うろうろアリ」の生き方・働き方』唐川靖弘著(EB Publishing刊)※記事中の写真をクリックするとアマゾンの商品紹介ページにジャンプします