年齢を重ねると、若いころにはなかった魅力がふんわり浮き上がってきます。現在67歳、雑誌のカバーモデルやイラストレーターとして活躍している結城アンナさん。インスタグラムでは、丁寧で心地よい日々の暮らしを発信してシニア世代を中心に絶大な人気を誇っています。
12月2日から7日まで開催されているイラスト展の会場『ギャラリー・ラ・リューシュ』にお邪魔して、コロナ禍での生活の変化やライフワークといえるイラストについて語っていただきました。話をうかがってアンナさんがいくつになってもキラキラ輝いている秘密がわかったような気がします。笑顔のアンナさんからは楽しく生きるヒントがたくさん! 「ハッピーの源はすぐ目の前にある」ということに気づかされました。
私は、“今がいちばん楽しい!”と思って生きています
──アンナさんのような、丁寧な暮らしぶりに憧れている方がたくさんいらっしゃると思うのですが、withコロナでアンナさんの生活は変わりましたか?
「特に大きく変わってはいないですね。もともと家にいることが大好きなので、全然苦ではなかったんです。週1くらいスーパーに行けば大丈夫でしたし、今までが外出しすぎていたのかなと思いました。主人(岩城滉一)とオジー(保護犬のチワックス♂)と私の3人がいれば、それでいいじゃない? っていう気持ちでしたね(笑)」
──岩城さんが北海道に別宅を建設中ですが、アンナさんはどのように見ていらっしゃいますか?
「私と主人は正反対の性格で、お互いが何をやっているかよくわからないんですけど(笑)、私は人生を楽しく生きている主人を見ているのが大好き。お互い好きなことをやって応援できる関係って、すごくいいなと思っています」
──いくつになっても夢を持ち続ける男性って素敵ですね。
「男性も女性もそうだけど、夢があるって健康の源だと思いますね。彼はとにかく動かないとダメな人なので、思い立ったらどんどん動いていっちゃうタイプ。その中で失敗があったり、いいことがあったり、一喜一憂していますがそれは彼の生き方なので私はそれでいいと思っています」
──お互いが尊重し合って楽しくやっていればいいよね、という関係ですね。
「そうね。だって人生って短いようで長いから……。幸せって他人にしてもらうんじゃなくて、自分で作り上げていくものじゃない? ブツブツ、ブツブツ文句ばっかり言っていてもどうにもならないですから(笑)」
──アンナさんにとっての今の楽しみは何ですか?
「家の中でできること(笑)。私は“今がいちばん楽しい!”と思って生きているんです。ときどきお仕事に出かけますが、あとは自分のケアをしたり、部屋の掃除をしたり、お庭の手入れをしたり、ごはんを作ったり、オジーとお散歩に行ったり、絵を描いたり……。つまらない女ですよ(笑)」
──アンナさんがつまらなかったら、私なんてもっとつまらない女です!
「でも私がやっていることって普通のことだから(笑)。みなさんを驚かせるようなことは何もしてないですしね。何気ない日々の生活を、自分自身が幸せって感じられるかどうかだと思うんです。私は今の生活が十分幸せですけど」
絵を描いている時間は、自分の心のケアにもなっている
──先ほども「絵を描いている時間が幸せ」とおっしゃっていましたが、12月2日から7日まで初めてのイラスト展『December Illustrations』が開催されています。色使いがとてもキレイで、ワクワクさせるような素敵な世界観に惹(ひ)かれるファンの方も多くいます。
「嬉しいです、ありがとうございます。本当は去年、開催する予定だったんですけど、コロナ禍ということもあり見送っていたんです。今年もできるかどうか危ぶまれていましたが、無事に行うことができました」
──3〜4歳のころ、お母さまが読み聞かせてくれた絵本の挿絵が大好きで、そこから絵を描くようになったそうですね。
「今は水彩画で描くことが多いですが、当時はクレヨンを使って紙芝居を作ったり、紙で作った着せ替え人形を描いたりして遊んでましたね」
──イラスト展が開催されて、今の気持ちはいかがですか?
「イラスト展のお話をいただいたときはびっくりしましたけど、みなさんに見ていただけるのは嬉しいです。会場も麻布十番の素敵なギャラリーで、“こんな素晴らしいところでできるなんて”ってすごく感激しています。実は16歳のとき、家族と日本に来て最初に住んだ街が麻布十番だったんですよ」
──小さいころからなじみのある場所で、初めてのイラスト展が開けたことは感慨深いですね。
「あらためて、やっぱりこの街の雰囲気が好きだなって思いましたね。豆菓子屋さんやベーカリー、和菓子屋さんなど昔からやっている老舗店があったり、新しいお店もあって、いろいろな国籍の方たちが行き来していて、活気があるんですよね。都会なのにちょっと下町っぽい匂いもあって、すごく好きな街です」
──イラスト展は選りすぐりの36点が展示されているそうですが、イラストからは「ぬくもり」「優しさ」「希望」「勇気」「幸せ」などが伝わってきます。絵を描かれるときは、どんなことを思いながら描いているんですか?
「本当に何も考えないですね(笑)。絵を描いていて好きなのは、“無”になれること。だから、気づいたら何時間も絵の前に座っていることもあって。絵を描いているときは、何にもとらわれない時間なので、自分の心のケアにもなっています」
──ご主人とケンカしたときや、嫌なことがあったときに絵を描くと、気持ちが楽になるとか?
「いや、それは別(笑)。そういうときは掃除がいいんですよ。窓を拭いたり、引き出しの中の物を出して、ひとつずつ拭いてまたキレイに並べるとすっきりします。ムシャクシャしたときは、身体を動かしたほうがいいのよ(笑)」
自分ができる範囲内で、丁寧に暮らしていけばいいのかな
──アンナさんは2021年、『グランマ・モーゼス展』の公式サポーターを務められました。グランマ・モーゼスは70歳で本格的に絵を描き始めて、80歳のときに初個展を開催、今では知る人ぞ知るアメリカを代表する画家です。年齢を気にせず、表現したいことをどんどん表現していくというところが、アンナさんも共通しているのかなと感じました。
「そうかもしれないですね。やっぱりある年齢まで来ると、自分に何ができるのかって考えますよね。止まったらダメだって思うんです。私自身、何かしていたいっていう気持ちがすごく強くて、できるだけ社会に参加したいと思っています」
──確かにアンナさんは、イラストだけではなく、お料理本を発表したり、雑誌のカバーモデルを務められたり、今も生き生きと活躍されています。
「ありがたいなって心から思うんですが、自分からやりたい!って言ったことはなくて、誘われることが多いんです。で、そのときに、“何でもやってみなきゃわからない精神”で、“いいよ!”って答えちゃうんです(笑)。自信なんてないですよ。イラスト展もそうでしたから。
間違ってもいいじゃない、チャンスなんだからやってみようって思うんですよね。自信がないとか、そんなこと言っていたら、死ぬまで自信はずっと出てこないような気がします(笑)」
──そのとおりですね。一度きりの人生、楽しそうと思ったら乗ってみてもいいかもしれません。
「そうそう。失敗したら、その後考えればいいんだから(笑)」
──勇気が出てきました、ありがとうございます。そして、早いもので2022年も最後の月になりました。2023年、アンナさんが新たに挑戦したいことはありますか?
「その質問はよく聞かれるんですけど、50代 くらいのときはあれもこれもやらなくちゃという気持ちがありました。でも、今は新しいことを始めるというよりも、今の生活の中でもっと深いところを見ていきたいと思っています。
別に難しいことじゃないんです。例えば、お散歩していて草花の香りを感じたときに、お花をじっくり観察したり、季節の変化や今まで自分がやってきたことをもっと深く強く感じたいなって思うんです。
年を重ねてくると、時間の流れや動作もゆっくりゆっくりになってくるじゃないですか。そうするともっと気持ちに余裕が出てくるんですよね。忙しく走り回らなくても自分ができる範囲内で、丁寧に暮らしていけばいいのかなと思います。それが幸せの源になるし、最終的にすべてつながってくるのかもしれないですね」
アンナさんの素敵な絵に囲まれて行われたインタビュー。クリスマスシーズンということもあって、麻布十番の街も少し浮き足立ったような華やかさにあふれていました。インタビュー中も、次から次へとアンナさんの知り合いの方々がギャラリーに入っていらっしゃって、アットホームな雰囲気の中の取材となりました。
取材陣が帰るときも「一緒に写真を撮りましょう」と声をかけてくださって、図々しくもアンナさんの横をゲット。そして、「またね」と笑顔で手を振ってくださったアンナさん。ギャラリーから出ると北風が冷たく吹いていましたが、ホットワインを飲んだようなポッと温かな気持ちになりながら家路に着いたのでした。
(取材・文/花村扶美)
《PROFILE》
結城アンナ(ゆうき・あんな)◎1955年、スウェーデンに生まれる。10代から雑誌『an・an』(マガジンハウス)をはじめとするファッション誌、CM、広告などでモデルとして活躍し、俳優・岩城滉一氏と結婚。その後は夫婦でCMやテレビ番組などに出演する。60歳を迎えてから本格的に芸能活動を再開し、60代のおしゃれアイコンとして注目を集め、現在は雑誌のモデルやトークショーなど多方面で活躍。著書に『自分をいたわる暮らしごと』『Anna’s Cookbook 季節の食卓』(ともに主婦と生活社)ほか。
Instagram: @ayukihouse
12月イラスト展 結城アンナ
会場:ギャラリー・ラ・リューシュ(東京都港区麻布十番2-13-2)
電話:03-3452-0800
会期:2022年12月2日(金)〜12月7日(水)11:00〜18:00
入館料:無料