かつての大人気番組、『アメリカ横断ウルトラクイズ』(以下、ウルトラクイズ)。その第10回大会(1986年)で、決勝まで行かせていただいた私の体験から、裏話をお話します。
これまで、「罰ゲームは実際に行われていたのか?」「出演者に台本はあったのか?」「本番が始まる前のチャレンジャーたちの様子は?」など、お話させていただきました。
○伝説の『アメリカ横断ウルトラクイズ』、砂漠を歩いて帰るなど、罰ゲームの“裏側”
○伝説の番組『アメリカ横断ウルトラクイズ』に台本はあったのか!? 準優勝者が語る“撮影秘話”
〇「会場付近で3時間待機」「本番前はずっと目隠し」、『アメリカ横断ウルトラクイズ』準優勝者が明かす収録の“謎”
今回は、私が参加した第10回で、いくつかの出題形式の中でも特に多かった“体力を使うクイズ”のひとつ、「マラソンクイズ」の裏話です。
第10回ウルトラクイズの裏テーマは「体力」!
司会の福留功男(以下、留さん)さんが何度も言っていたように、ウルトラクイズに勝つために必要なものといえば、「知力・体力・時の運」が決まり文句でした。
スタッフから聞いた話では、私がチャレンジした第10回には裏テーマがあり、それはなんと「体力」だったとのこと。
言われてみれば、成田空港では、それまで行われていた“ジャンケン”形式から、まさかの“腕相撲”形式へ。ハワイでは、綱引きを取り入れたクイズ。
そして、定番の「バラマキクイズ(クイズの問題文が入った封筒を、砂漠や平原などの広大な土地の上空からまいて、それを挑戦者たちが走って拾ってきてからクイズに解答する)」など。あらゆる場面で、“体力クイズ”が行われました。
当時、いまよりも10キロ近く体重が重かった私にとっては、体力クイズはまさに鬼門。
ウルトラクイズに参加している最中に、「もし明日、体力を使う過酷なルールだったら、負けるかもしれない」と考えたことは一度や二度ではありませんでした。
そんな体力クイズの中でも、過去の放送を見て私が最も恐れていたのは、「マラソンクイズ」と呼ばれる、マラソン形式のクイズです。これは簡単に言えば、解答者全員が走りながら早押しクイズをやるというもの。
当然、勝ち抜くのが遅くなれば、何キロも走り続けなければなりません。1キロを走る自信さえなかった私にとっては、まさに恐怖のルール。
そんな「マラソンクイズ」が、とうとう行われてしまったのが、アメリカ本土に入ってから4つ目のチェックポイント、モニュメントバレーでした。
西部劇の舞台になった砂漠でマラソン!
モニュメントバレーは、かつて西部劇の舞台として定番だった場所です。
広大な砂漠にメサと呼ばれるテーブル型の岩山がたくさんあり、年配の方は、ジョン・フォード監督の映画『駅馬車』を思い出すかもしれません。
ここで、チャレンジャーたちの前に用意されたのは、荷台のいちばん後ろに3つの早押しボタンが設置されたトラック自動車。そこにチャレンジャーが3列に並び、走るトラックを追いかけながらクイズをするのです。
早押しボタンは3つしかないので、クイズに答えられるのは15人中、最前列の3人だけ。誰かが正解すると、答えられなかった2人は、後ろの人と交代して最後尾へ移動。誤答しても最後尾へ移動、というルールで、2点先取の勝ち抜けでした。
当然、クイズのスタート時に先頭列にいる人が有利です。この順番は、たしか全員に近似値クイズを出し、正解に近い数字を答えた順に並び、私は運よくスタート段階で先頭の3人に入ることができました。
全員が並び終わると、間髪を入れずにトラックが動き出し、いよいよ、正念場のスタートです。
あと1問のところで強敵登場によりピンチに!
こちらとしては早く問題を出してほしいのに、ここぞとばかりに留さんが焦らします。
「フェニックスからバスで6時間近く、遠いところです。めったに来ることができないモニュメントバレーにやってきました。素晴らしい景色ですね。昔は海の底に沈んでおりました。それが隆起しまして、そのあと、風の浸食でこのような風景ができあがったのであります」
そ、その説明、いまはいらん!
「ルール説明を申し上げます」
ここから長々とルール説明。チャレンジャーはこのタイミングで、初めてルールを知りました。
走りながら、「なるほど2点先取ね」と思う私。こうなれば、狙うは2回連続で正解してさっさと勝ち抜くことです。とはいえ、誤答で最後尾へ行くのも避けなければ……。
「問題、『寂しい荒野に埋めてくれるな』がテーマソング、ここモニュメントバレーを疾走する乗り物がタイトルになっている西部劇の名作は?」
ピーン(ボタンを押す音)。
「西沢!」
「『駅馬車』!」
ピンポーン(正解音)。
運よく1問目を正解。問題が監督名にまで及ぶのではと考え、慎重に最後まで問題文を聞いての正解です。
“よし! あと1問正解で抜けられる!”と思ったのに、後ろの列から強敵、森田敬和さんが登場。
「問題、童謡『うさぎとかめ』。うさぎとかめが競走したのは、どこまで?」
ピーン。
「森田!」
「向こうのお山のふもとまで!」
ピンポーン。
ああ、取られてしまった。最後尾へ移動する私。オンエアでは、全員がスルーした問題はカットされているので短く感じますが、それから再び先頭に戻るまでの、長かったことといったら……。私はとにかく無心で腹式呼吸をしながら走っていました。
ようやく先頭の順番が巡ってきて、「セ・リーグ6球団の中で、帽子のマークがアルファベットひと文字なのは何球団?」という問題に「2球団」と正解して抜けることができました。
これ、もうかなり疲れていて、頭の中で整理する間もなくボタンを押して、かなり勘に近い正解だったような気がします。あれが不正解で最後尾へ回っていたら、本当に危なかったかもしれません……。
人から「ウルトラクイズの体力クイズって本当にキツかったの?」と尋ねられたら、こう答えます。
「罰ゲームと一緒で、テレビで見るよりも数倍は大変です」
事実、このときのマラソンクイズでは、勝ち抜けたものの、貧血症状になって体調を崩したチャレンジャーがいました。
余談ですが、このモニュメントバレーでのクイズが始まる前、砂漠の中を移動しているとき、チャレンジャーのひとりが広大な景色に感極まって、「最高だよな。これがウルトラクイズだよな」とつぶやいていました。
その言葉を聞いて、“本当にそうだよな”と、やけに感動したのを覚えています。
(文/西沢泰生)
【PROFILE】
西沢泰生(にしざわ・やすお) 2012年、会社員時代に『壁を越えられないときに教えてくれる一流の人のすごい考え方』(アスコム)で作家デビュー。現在は作家として独立。主な著書『夜、眠る前に読むと心が「ほっ」とする50の物語』(三笠書房)『コーヒーと楽しむ 心が「ホッと」温まる50の物語』(PHP文庫)他。趣味のクイズでは「アタック25」優勝、「第10回アメリカ横断ウルトラクイズ」準優勝など。