いつの時代も、人間関係に関する悩みは尽きないもの。なかでも恋愛に関しては、100通りの恋愛があれば、100通りの回答があるのかもしれません。
このたび、恋愛指南本も多数執筆されている文筆家でAV監督の二村ヒトシさんと、「自分の婚活問題について二村さんに相談したい」というフムニュー読者との対談が実現。第1弾に続いて(第1弾記事→【二村ヒトシの恋愛相談#1】“モテの伝道師”が「マッチングアプリで理想の相手に出会えない問題」を本気で解明!)、30代女性のリアルな悩みに、二村さんが鋭いメスを入れます!
*今回のゲスト*
井上明日香さん(仮名)
関東地方在住の34歳。ウェブサイト制作関連会社のディレクター。10年ほどつきあい、結婚を考えていた2歳上の彼氏と5年前の大みそかにケンカ別れをしたのがきっかけで、マッチングアプリに登録。目ぼしい相手と出会えないまま現在に至る。
現代の男性によく見られる「強い女性が好き」発言の謎
二村「マッチングアプリで婚活している女性には、前の交際が長すぎて恋愛の始め方を忘れちゃっている人もいます。明日香さんも結婚まで考えた彼氏と別れたあと、出会い系のアプリで知り合った男性何人かと遊んだり仲よくなったりしてみて、リハビリにはなったわけです。でも、 “私は結婚がしたかったのだ、こんなことをしている場合ではない” と思い直して、今年の夏から婚活色が強いアプリに登録なさった」
明日香「はい」
二村「ところが、ガチな婚活の現場には、30〜40代でちゃんと仕事もしているのに、適切に伝わるポジティブな感情表現ができないから、話が噛(か)み合わない男性も少なくない。ちなみに明日香さんは、婚活メインじゃないアプリで知り合った人とも2人ほどつきあってみたことがあると。彼らもそのタイプでしたか?」
明日香「そういう感じではなかったですね。どちらかというと “これまで真剣につきあってこなかったけど、そろそろ身を固めようかな” っていう、遊び人から足を洗ったみたいな人でした。だから女性には慣れてるんですよ。でも、そのうちの1人に、私が仕事以外にも休日に、友人が働く飲食店のグッズのディレクションやイベントの手伝いをしていることを言ったら、嫌味っぽく “ふーん、意識高いよね~” って言われて。けっこう頭にきたし、地味にショックで」
二村「言い方に明日香さんをイラッとさせる棘(とげ)があったんだろうなと想像するんですが、彼は“結婚相手の意識が高いと自分に時間を割いてくれなくて、理想とする生活を送れない”って思ったのかな」
明日香「そんな感じでした」
二村「しかし、女性がやりたいことをいろいろやっていたら “意識高い” って言われちゃうのも、どうかと思いますけどね」
明日香「彼は “強めの女性がタイプ” って言っていたので、最初は私と合うんじゃないのかなって思ったんです。でも彼の理想像をよくよく聞くと、見た目や口調は強めで生活力はあるけれど、内面は可愛くて純情、って感じが好きらしくて」
二村「あー」
明日香「世話を焼いてくれて、いざというときは彼を立ててくれるような子がよかったのかも。そういえば、彼のお姉さんの写真を見せてもらったら、いわゆる元ヤンタイプで、もちろんそういう女性を否定するわけじゃないんですけど、これを私に求められてもちょっと違うなあ……と」
二村「ちょっと前からテレビ番組などで芸人さんが “マゾなんです” って言ってウケるとか、性癖的に強い女性を求めていることをアピールする男性も増えました。僕もそうなんですが、僕らがつい言っちゃう “強い女性” の “強さ” が何を指しているのかは考えないといけませんね。おそらく、そういうことを言う男は、女性には自分を助けてくれるくらいパワフルでいてほしいけど、男のプライドだけは脅かしてほしくないんですよ」
明日香「あ~、本当にそうだと思います」
二村「だから自分の知らない世界のこととか、彼女にしゃべってほしくない」
明日香「婚活アプリでマッチングした別の男性からも 、“自立した女性が好きです”って言われたんですけど、私の中では、女性が普通に仕事して自分の食いぶちを稼いでいるくらいのことを “自立してますね”って言われちゃう時点で、ちょっと女を下に見ているように思えて、その人にはそれで冷めちゃったんですよね」
趣味や価値観が同じ男性と結婚すれば、うまくいくのか
──趣味と婚活についてなんですが、明日香さんは漫画や小説もお好きということです。二村さんは本や映画の感想を語りあうとか、初対面の参加者同士が、恋愛やセックスで体験したことや考えたことを共有しあうイベントを、オンラインでも対面でもやっておられます。そういう場で、例えば、読書という共通の趣味がある異性と知り合うチャンスが作れれば、感受性や価値観の合う人を見つけやすいものなのでしょうか?
二村「読書会や趣味のサークルは、婚期が遅れがちな層の出会いやマッチングとしては、とてもいいと思います。ただ、本や映画について語り合うのでも、料理やスポーツ、アウトドアなどでも、“自分のほうがよく知っている” という知識語りのマウンティングをしてしまう人がいるんですよね。体験談をもとにした対話のイベントだと、求められていないアドバイスを始めてしまう人もいる。男性に多いですが、女性にもいます。悪気はないんだと思いますが、そういう人は感想や意見を借り物の言葉で述べるので、自己開示につながらない。おそらく自身の価値観を壊されたくなくて、無意識に防衛しているんです」
明日香「わかるような気がします。職場にもそういう人、多いです」
二村「また、自己開示と言っても、いきなりトラウマ的な過去の話とかまでぶっこまれて依存されても困りますよね。なんでも話せばいいというものではなくて、対話でも交際でもそうですが、自分のコアな部分を語れるようになるには場の心理的な安全性が必要だし、自分が話すことよりも、まず相手の言うことをちゃんと聴いて受けとめることのほうが大切なんです。リア充だけどモラハラっぽい男性も、感情表現が不器用な非モテの男性も、根っこの問題は同じで、女性の言うことをちゃんと聴いていなくて、自分にとっての都合のいい面しか見ていない」
明日香「ああ、でも女性の側も、というか、私もそうかもしれません……」
二村「だから読書会や対話のイベントは、感受性が近しい人と出会うためというより、人の話を聴けるようになるための訓練や、“同じ本を読んだり似た体験をしたりしていても、自分とはまったく違う感覚や意見をもつ人が世の中にはいるのだなあ” ということを知るためにやっています」
──明日香さんのお話や二村さんの分析をうかがって、婚活アプリでいくら条件を絞りこんでも、余暇に趣味のサークルで活動しても、価値観がピタッと合う相手を見つけるのは、なかなか難しいのだなと思ってしまいました。それでは結局、理想の結婚相手と出会うためには、どうすればいいのでしょうか。
二村「これも人によるんですけど、もしかしたら “理想的な結婚相手” という観念を、いったん捨てるのがいいのかもしれませんね。会話が噛みあう人のほうが楽しいのは確かだし、趣味が同じなら一緒にやることができますが、どんなに気があう相手でも、感性や意見が完全に一致するということはありえない。だから合う合わないで納得できるかより、ぜんぜん違うのに “そういう考えかたもあるのか!” と面白がってくれたり、譲れる部分は話しあって譲ってくれたり、こちらをコントロールしようとせず放っておいてくれたりする性質の人のほうが、明日香さんのようなタイプが家族になって一緒に生きていくには、居心地がいいんじゃないでしょうか。もちろん、こちらにも “違う感覚” や “違う意見” に対して、無理に妥協して合わせるのではなく、それをちゃんと受容できる器(うつわ)がないとダメなわけですが」
明日香「そうかもしれないです。同じ漫画を好きな人とほど、解釈の違いで険悪になったりすることがありますし」
二村「ただ、放っておいてくれる相手というのは、結婚しちゃってからはウザくなくていいかもしれませんが、恋愛の初期だと “私に関心がないのかな” って、寂しく感じてしまうことがあるでしょうね。好きになった相手なのに、お互い余計な期待をかけないですむというのは……」
── やっぱり難しいですね(笑)。
二村「いや、だからこそ、まず理想を捨てるといい。理想論での結婚像を持たないで、やっぱり女性こそ “いま現在の自分の欲望” と向かいあうべきなんです。
僕の知りあいに、仕事は好きなんだけど結婚もしたいし、家庭を作る以上は、自分は女なんだから家事ができないと恥ずかしいから頑張る、そして理想の夫は仕事もできて優しい人で、家事もきっちり半分担当してほしいという、まあ非常にまじめな女性がいたのです。彼女が思い描いていたのは、仕事と結婚を完璧に両立させる、現代の働く女性の理想の姿ですね。そんな夫になれる男を見つけようとして、もちろん、なかなか出会えませんでした。
ところが彼女はたまたま、ある男性と恋に落ちちゃって、その相手が無職だったんです(笑)。しかも、その男性は “一緒に住もう” って言い出した。さすがに “ヒモ志願かな、だったらヤバいな” とも思ったんですが、なにしろ惚れてしまったので、とにかく彼を自分のマンションに住まわせた。そしたら彼は家事を意外と一生懸命やるようになったので、生活全般のことを完全にまかせてみたら、彼女にとってメチャメチャそれが楽で(彼女も、彼の完璧ではない家事に神経質に文句をつけなかったようです)、仕事の能率も上がってどんどん楽しくなり、会社で出世したそうなんです」
明日香「………」
二村「それで彼女は “本当は、自分は家事なんて全然やりたくなかった、仕事に生きたかったんだ” という欲望に気づけた。相手に対しても自分に対しても理想で考えず、かと言って妥協をしたわけでもなく、そのときの流れを見て、やりたいことを取ったんだと思います。そうしたら、たまたま相手と自分とのベストな関係が作れた。彼もひとりのときは汚い部屋で平気な人だったらしいんだけど、きっかけがあったから変われたんでしょう。その変化も、たまたまだったのかもしれませんけど。
欲望というものは、そのとき、そのときの愛する相手や自分の年齢によって変化したりもしますからね。だから、その2人も将来どうなるかはわかりませんが。なんにせよ、あらかじめ決めつけておかないほうがいい」
あなたは“結婚がしたい”? それとも “幸せになりたい”?
二村「幸せになる、満足して生きていくための手段として結婚の相手を探しているのに、どうにも相手が見つからないのが原因で “幸せじゃない” んだったら、とりあえず婚活以外のことを楽しんでやっていたほうが道が開けます。いい精神状態でいるほうが、いい相手と出会いやすいです。
でも、いきなり “あなたが本当にやりたいこと(本当の欲望)は何でしょう?” なんて問われても普通は答えられないですから、まずは出会い系アプリも婚活もやってみたのは、ムダな時間ではなかったと思いますよ。ろくな男と出会えなかったって経験で、“つまらないデートをしているときは、自分の欲望は満たされていない”って、わかったわけですから」
──理屈じゃなくて本能的な部分で、合う合わないを判断したのかもしれないですね。
二村「その人のことは好きなんだけど、その人と会ってるときの自分が好きになれない(どこか無理している)ように感じる人とは別れたほうがいいって言いますよね。あれと同じで、どんな欲望を満たしているときの自分が、自分で好きだと思える自分なのか。それが大事です。
自分に無理を強いて叶(かな)えようとしてる欲望は、社会によって作られた欲望であることが多いので、それを満たすと親からほめられたり、他人からうらやましがられたりはしますが、最終的に幸せになれないんです」
──確かに結婚願望というのも、社会に作り出された欲望なのかもしれません。
明日香「言われてみれば出会い系アプリで会った、結婚できない悪い男性を好きになってしまっていたときは、心がときめいて絶好調に楽しかったですね(笑)。でも、それもなんか違うんですよ。だんだん自分が大事にされていないことが明らかになってくると、今度は、そんな男と過ごしている自分が嫌いになっちゃう」
二村「それはやっぱり、自分にとって “いい欲望”だったのではなくて、ただ脳内麻薬物質が出ていただけだったんじゃないですか。恋愛で取り乱していると、自分の心を守るためにそういうものが分泌されて一時的にハイになって、そのあとで必ず落ち込みますからね」
明日香「ひどい(笑)」
二村「でも何度も言うけど、それもムダじゃなかった、そのときの明日香さんに必要だったんだと思いますよ。20代の10年も、もちろんムダじゃなかった。恋愛でも仕事でも、時間をかけないと “自分は本当は何が欲しいのか” なんて見えてこないです。その人の人生のテーマですから。
自分の欲望を発見するためには “偶然性” を大切に扱うことも必要です。マッチングアプリでの出会いは一見、偶然のかたまりのようにも思えますけど、事前にわかるスペックにこだわり、微妙だったらお互いすぐに次の人に行けるのは、自意識での判断が働きすぎちゃうでしょ。マッチングアプリは今みんなやってますけど、向いている人と向いていない人がいるのは確かです。
アプリでもSNSきっかけの恋愛でも、自分の仕事や生活の範囲外にいる人が、いくらでも恋人候補になりえる偶然性はとても面白いですけどね。それが風通しの悪い交際になると視野が狭くなって、その人のヤバい部分に気づくのが遅くなりがちだったり、いいところに気づく前にすぐ諦めて次に行きがちだったり、ということはあるかもしれない」
──明日香さんは、ここまで二村さんとお話をされて、なにか心の変化はありましたか?
明日香「最初は、パートナーがいない状態はつまらないし、なんか自分が欠けているんじゃないかって思って、焦っていたんです。でもお話ししているうちに、そこは無理して頑張るべき部分じゃないんだなってわかってきました。
結婚する気がない男性にふりまわされるのも、婚活のスケジュールを詰め込みすぎて毎週末、土日の昼・夜を使って4人と会うなんていうのも、ハイにはなりますけど、生活に余裕がなくなるんですよね(笑)。
婚活はゆるく続けるとは思いますけど、 余裕がない自分はあんまり好きじゃないので、アプリに頼るのはほどほどにして、自分のペースでいろんなところに出かけて、いろんな人に直に会って、偶然すてきな人と仲よくなる可能性を増やしていこうって今は思っています」
*本日の二村格言*
「理想論での結婚像を持たないで、やっぱり女性こそ “いま現在の自分の欲望” と向かいあうべきなんです。(中略)どんな欲望を満たしているときの自分が、自分で好きだと思える自分なのか。それが大事です」
まるで心の奥底を見透かされているような二村さんの言葉。実は、みんな本心では、これまで親にも友達にも明かしてこなかった欲望が渦を巻いているのかもしれません。人にも言えないような悩みや不安を、そっと二村さんに話してみませんか?
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(取材・文/池守りぜね、監修/二村ヒトシ)
【PROFILE】
二村ヒトシ(にむら・ひとし) ◎1964年、六本木生まれ。慶應義塾幼稚舎卒、慶應義塾大学文学部中退。AV男優を経て、’97年からAV監督。現在では定番になっているエロの演出を数多く創案した。著書に『すべてはモテるためである』 『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』(いずれもイースト・プレス)、共著に『オトコのカラダはキモチいい』(ダ・ヴィンチブックス)、『どうすれば愛しあえるの ──幸せな性愛のヒント──』(KKベストセラーズ)、『欲望会議』(角川ソフィア文庫)など。
本人Twitter→@nimurahitoshi