漫画家だけで食べていこうとも、それが可能だとも思っていなかった
──では、漫画家になるという意識は大学生のときにも、まだなかったんですね。
「というより、最初から商業系の漫画家になろうとは思っていませんでした。“ライフワークとして一生続けていくんだろうな”って漠然と思っていたくらいで。今みたいに、こうやって人に読んでもらうようになるとは、まったく想像していませんでしたね」
──そうだったんですか。いち読者としては、有名雑誌で連載するような漫画家を最初から目指していた方なのかなと思っていました。
「漫画だけで食べていこうとは考えていなかったし、そもそも、それが可能だとも思っていませんでした。
当時は電子書籍も出始めたばかりのころで、不況によって雑誌も売れなくなっていた時代で、出版業界じゃなくても、有名な会社ですらドンドン倒産したり、事業を撤退したりしていたんです。そんな逆風の中で雑誌連載の漫画家になるのは、むちゃだなって思っていました。そのため、大学生のころから絵の勉強と同時に、普通の勉強にもかなり力を入れていました。だから、純粋な漫画家として同年代の方が活躍している姿を見ると、本当に尊敬しますね」
──学生時代から、今の地盤を手堅く固めていたんですね。
「はい。高校生になり、さまざまな評論などを読んでいるうちに、“人の視点が変わると、正しいと思える内容が変わる”ということに気づいたんです。だから、大学に行ったら自分の正しい判断軸を作らなくちゃいけないなと考えていたんです。
当時の自分には、どちらが(何が)正しいか判断できる“よりどころ”がないなって思って、このままじゃマズいぞってすごく焦っていたんです。なので、大学に行くときには漫画を描くのと同時に、物事を判断する根っこを作るための勉強をちゃんとやろうって決めていました」
──高校生にして、それだけの危機感があったんですね。
「そうですね。物事について感想は言えても、“なぜそう思ったか”を言えないなら、それは自分が空っぽっていうことだ! って10代のころにずっと思っていたので、志望の大学に向けて必死に勉強していましたね。こういう考え方も、自身の創作につながっているのかもしれません」