「アフタヌーン四季賞」で佳作受賞、連載の打診を受けるもすぐに断る

『僕の小さい頃の曖昧な記憶』は小田桐さんの実話をもとにした作品とのこと

──その後、会社員として働くかたわら、2010年の秋に講談社『月刊アフタヌーン』が主催する漫画新人賞「アフタヌーン四季賞」で佳作を受賞されていますが、連載に至らなかったのには何か理由があるのでしょうか?

実は、賞を受賞したときに担当編集の方に声をかけていただいて、出版社さんに打ち合わせをしに行ったんです。そこでおほめの言葉をいただいて、“次の作品を持ってきてほしい”と言われました。でも先ほど言ったとおり、もともと漫画家一本で食べていこうなんて思っていなかったんです

 そもそも『月刊アフタヌーン』の賞に応募した理由が、“自分の漫画は、商業的にどんな評価をされるのかな?”という力試しでした。当時はCOMITIAを通して、初めて人から見られることを意識した作品を描くようになったころ。最初から、“たまに短編で載せてもらえたらいいな”っていうモチベーションだったので、長期連載はまったく考えていませんでしたね

──自ら断ったということですか?

「そうです。確か、担当編集の方と会って別の漫画を持っていったとき、“サラリーマンものの漫画なんてどう?”って、長期連載を前提に打診されたんです。当時、会社員をしながら漫画を描いていましたが、仕事をやめる気も全然なかったので、“じゃあいいです”ということでお断りしました。だから、編集さんとも2回くらいしか会っていないです」

──そうだったんですか、なんだか、もったいない気もしますね......。

「そうですか? まぁ、確かに人によってはすごいチャンスだったかもしれないですけど、ほかにもこういう人は、結構いると思いますよ。

 私の考えとして、安定した生活がないと心の余裕がなくなって、いい作品は描けないっていう確信があったんです。例えば、“今は貧乏だけど、売れる漫画を描いて取り返すために頑張ろう!”って思える人は、漫画家に向いていると思います。でも、私の場合はそういう不安要素があると“生活を安定させなきゃ”で頭がいっぱいになるし、創作にリソースが割けなくなって最善を尽くせません。ずっと続けていくには、会社員として働きながら漫画を描くというのが私には合っていたので、連載にこだわりはなかったです」

『僕の小さい頃の曖昧な記憶』より、アンと名乗るヒロインが喜びを爆発させるシーン
 
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「安定した生活があるからこそ、創作活動ができる」

 会社員と漫画家という二足のわらじをはきながらも、軸をぶらさずに創作活動と向き合ってきた小田桐さんだからこそ、人々に広く認知され、結果的に漫画家としても長く活動していけているのだと思います。

 次回、インタビュー第3弾では、小田桐さんが、漫画家としての生命線である視力を奪う緑内障とどう向き合ってきたかについて、語っていただきます。

(取材・文/翌檜 佑哉)


【PROFILE】
小田桐圭介(おだぎり・けいすけ) ◎大学入学時から漫画を描き始め、同人誌即売会「COMITIA」などで販売。会社員として働くかたわら、2010年の秋に『月刊アフタヌーン』主催の漫画新人賞「アフタヌーン四季賞」で佳作を受賞。Twitterに漫画を投稿したことがきっかけで『あたし、時計』『さくらちゃんがくれた箱』といった短編作品がバズり、数年おきに注目を集めるロングヒットになっている。作品に『オダギリックス!小田桐圭介短編集』『香夜たちの話』などがある。

◎公式Pixiv→https://www.pixiv.net/users/37972190
◎公式Twitter→@odagiri_keisuke
◎小田桐圭介著:『オダギリックス! 小田桐圭介短編集』Kindle版 
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