働きすぎ防止のカギは校長が握っている

 法改正の影響もあり、学校現場では校長の存在感が大きくなっています。教室で朝の会をしていると校長がいきなり前のドアから入って来て、教室がきれいかどうかをチェックすることがあります。胸に〈学校をきれいに〉と書いたプラカードをつけて。教室をきれいにしていなければ担任が注意されそうです。昔は、たとえ校長でも担任への遠慮があり、勝手に教室に入ってくることはありませんでした。校長の権力を感じます。

 私が提訴当時に勤務していた学校では、勤務時間が終了していても教員は帰る前に校長室に報告・挨拶をするように指示されていました。これでは若い先生が定時に帰宅するのは無理です。校長がまだ残っているのに「帰ります」と申告するのは、相当な勇気が要るでしょう。現実的には無理です。そんな人はいません。校長はそれがわかっているから、帰るときに挨拶をするように要求するのです。朝7時前から出勤、夜9時退勤が当たり前の若手教員がたくさんいました。

 文部科学省は「教員には自主的・自発的な勤務が多い」と言いますが、一部の教員が自主的・自発的にやっていた仕事が、校長を介して全体のルールになることがよくあります例えば「掲示物のペン入れ」です。子どもたちが描いた絵を廊下に貼りだすとき、署名欄に感想やコメントを書き入れる仕事です。初めは一部の先生だけがやっている作業でした。しかし、それが校長から職員会議で「丁寧だ」とほめられ、コメントを入れることが全校的な要求になりました。授業参観の時期になると、校長が「コメントを書いておいてください」と言い、全部の教室の掲示をチェックしに来ます。1枚の絵のコメント記入に2分かけたとしたら、40人近い子どもがいますので、合計80分かかります。

 教員の働きすぎの第一義的な責任は校長にあります。しかし、残念ながら多くの校長には教員の労働を管理している意識がほとんどありません。前回の記事で、「勤務時間内に休憩時間が設定されているのに、それが確保されていない」と指摘しました。教員の休憩時間を意識している校長が、全国にどれくらいいるでしょうか? すべては校長次第です。私は裁判を起こした翌年、別の小学校に異動になりました。新しい学校の校長は、ある程度働きすぎ解消に理解を示してくれました。そこで私がどんなことに取り組んだか、次回紹介します。

(取材・文/牧内昇平)

◎田中まさおさん公式Twitter→https://twitter.com/trialsaitama
◎著者・牧内昇平Twitter→https://twitter.com/makiuchi_shohei