夏の甲子園を目指す全国の高校球児たちが今、各都道府県の大会で熱い戦いに臨んでいます。
今年3月に「2023ワールド・ベースボール・クラシック」で優勝した侍ジャパンの活躍も、記憶に新しいところでしょう。ダルビッシュ有、大谷翔平、吉田正尚、村上宗隆、佐々木朗希などなど、大半の選手は小学生のときから白球を追い、その才能を開花させてきました。
しかし、少子化となった近年では、指導者によるパワハラや、家庭の事情や経済的負担などから、野球人口も減少傾向にあるといわれています。
そんな中、スポーツ用品メーカー大手『ミズノ』は、「ミスを怒らず、みんなで助け合う」を理念に掲げた少年野球大会を開催。
子どもたちにもっと野球に触れてほしい──そんな同社の取り組みを追いました。
監督や保護者が怒ったら“イエローカード”
47都道府県の軟式小学生チームが競う、「ミズノベースボールドリームカップ ジュニアトーナメント(以下、ドリームカップ)」。2021年の第1回大会はコロナ禍の影響で予選のみで終わってしまったものの、昨年の第2回大会は7月に熊本で、決勝戦ファーストラウンドとして全国から勝ち上がった56チームの中から8チームを選抜。そして12月に甲子園で開催されたファイナルラウンドで8チームが競い合い、兵庫県の北ナニワハヤテタイガースが頂点に立ちました。
実はこのドリームカップには、ほかの少年野球大会には見受けられないルールがあります。
〈1〉元気いっぱいプレーしよう!
〈2〉気軽にプレーしよう! 体操服・運動靴でもOK
〈3〉みんなが主役! 1人でも多くの選手が試合に出よう
〈4〉みんなでこの大会を盛り上げよう
〈5〉失敗した時こそ、励まし合おう
ルール〈1〉、〈4〉、〈5〉に通底するのが「選手のミスを、監督(指導者)や保護者が怒ることは厳禁」という点。もしその様子を見られたら、審判、運営側がイエローカードを提示。2回提示されると退場扱いとなります。
〈2〉は、ユニホームがそろっていなくてもジャージや運動靴での出場が可能。その際、チームは背番号が入ったビブスをつけてプレーします。
〈3〉は、通常の野球ルールでは、一度交代した選手は再出場できないことになっているところを、ドリームカップでは一度下がっても再び出場できる「リエントリー制度」を導入しています。
なぜこうした独自ルールに基づく野球大会を開催したのか。
大会運営担当のミズノ・ダイアモンドスポーツ事業部の古谷幸平さんによると、「少子化もあり、野球をする子どもの数や、少年野球連盟に加盟するチーム数も右肩下がりになっている」として、子どもの野球人口の数を増やしたいという思いがあったそう。ただ、人口の数が減っている要因はほかにも考えられると言います。
「まだまだ野球には『野球=厳しい』という、監督に罵声を浴びせられるとか殴られるといったイメージがあります。あと少年野球でいうと、お茶当番や子どもの送迎などで親御さんに負担がかかり、子どもが『野球をやりたい』と言っても反対されてしまうという状況もあるようです。
公園や広場で野球ができにくくなり、子どもたちが野球に触れる機会がなくなっているのもあるのかなと」
ルール〈2〉のジャージや運動靴での出場が可能という以外にも、バットやグローブなどの道具がそろっていないチームには同社が貸し出しをしています。ルール〈3〉のリエントリー制度を設けたのも、少しでも子どもたちに出場機会を与えたいという意図からだそう。
そして、ドリームカップの大きな理念に掲げているのが、「ミスを怒らず、みんなで助け合う」。プレー中のエラーや失点を責めずに、励ましたり助け合えたりする環境づくりを重視しています。
「会社としても、野球人口が減っているという危機感を抱いていました。私自身も野球をやってきたので、恩返しというわけでもないのですが、野球を振興していきたいという思いがありました」(古谷さん)
子どもたちを励まし、自主性に任せたプレーを
では、実際にドリームカップに参加した人たちの反応はどうだったのでしょうか。
ちなみに昨年の大会では、イエローカードこそ出なかったものの口頭で注意を出された指導者がいた一方で、大会理念に賛同して指示やサインを出さずに選手の自主性に任せる指導者もいたそう。「ほかの大会よりも、子どもたちを励ます声が多く感じられた」(古谷さん)と言います。
また、ドリームカップではチーム人数が不足していても、ほかのチームと混合すれば参加が可能なため、今回初めて野球大会に参加できたという子どもたちも。
「『(試合に)負けはしたけど、これからも野球をやっていきたいです』という感想もあった」という反応も含め、大会開催の意義は確実にあったといえます。
高校球児の減少も顕著です。日本高野連発表の今年5月末時点での加盟校数と部員数の集計結果によると、加盟校数はピークだった2005年の4253校から3818校に。部員数は昨年から2902人減の12万8357人と、硬式では9年連続の減少となっています。
野球人口の減少は、球界全体が抱える大きな課題ですが、まずは子どもたちが気軽に参加できるよう野球に触れる門戸を広くしたいと、今年もミズノは「ミズノベースボールドリームカップ ジュニアトーナメント2023」を2月から全国各地で開催。昨年の803よりも多い908チームが参加し、熱戦を繰り広げてきました。
この7月28~31日には決勝戦ファーストラウンドを熊本で開催し、12月に甲子園でのファイナルラウンドへと進みます。
「(ドリームカップを開催して)まだ2年しかたっていませんが、こういった活動を長期的に続けることで、野球人口が増えればいいなと思っています」(古谷さん)
熊本、および甲子園でのドリームカップは一般の方も観覧可能とのことですので、子どもたちが「楽しんで」野球をプレーする姿を見てみてはいかがでしょうか。
(取材・文/松平光冬)
◆「ミズノベースボールドリームカップ ジュニアトーナメント2023」
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◆「ミズノベースボールドリームカップ ジュニアトーナメント2023」熊本大会詳細http://pridejapan.net/