落ちこぼれと天才は、意外と簡単に入れ替わる
──人によっては、ADHDと診断されたことをネガティブにとらえてしまう人もいると思いますが、どうすれば悲観的にならずにいられると思いますか?
武田さん:一般的には、まだまだ“発達障害=マイナス”ととらえる人も、多いのかもしれません。でも、ネガティブやポジティブって、環境によって意外と簡単に入れ替わるんですよ。凸凹の凹だと思っていたことが、アーティストという立場になると「天才」って言われる。
自分の特性に合わない環境に行けば、そりゃあ僕だってネガティブになりますよ。事務系の仕事をしていたら、いちばん落ちこぼれていた自信がある。毎日怒られてそのたびに反省するんだけど、どれだけ頑張ってもほかの人たちの平均値には行かない。
だから自分の性格を直すよりも、環境を選ぶことが大事だと思います。それを許してくれる友達や、「それがいい!」って言ってくれる友達、その特性を生かせる仕事や職場が見つかれば、もうネガティブにはなりにくい。
──これからADHDとどう向き合っていきたいですか?
武田さん:時代が変わってきているじゃないですか。大量生産の時代があって、デザインにこだわるものが出てきて、平準化も可能になった。そして今、創造性やクリエイティビティが大事だと言われているんだけど、創造とは、今までなかったものを生み出すこと。それってつまり、“いらんこと”をするしかないんですよ。
エラーをたくさん起こして「はあ?」とか「バカじゃねーの」って言われるようなことをひたすらやっている人が、たまに発明をする。そういう意味で、凸凹の激しい、発達障害と呼ばれる人たちにとっては、今の世の中はすごいチャンスが広がっていると思う。僕自身は世界に向かって、ADHDをフル活用していきます。
──最後に、ADHDで今苦しんでいる方にメッセージをお願いします。
武田さん:たぶん、自分の特性のことで周りの人が苦しんでいるのを見るのも、つらいと思うんですよね。ADHDの子どもが、自分のことでお母さんが悩んでいるのを見る、とか。でも、知識があることで助かることもあるから、みんなでADHDを学んでほしい。ADHDってこういうものなんだって。
ネコはニャーって鳴くとか、イヌはワンって鳴く、みたいなものだから、そういう生き物だということを知るだけで、きっと、そうとう楽になる。ADHDだということを受け入れて、いい意味で諦めて、これをどう生かすかを考えたほうがいいと思います。「こういうやり方だったら、このADHDの特性が役に立つんじゃないか」と、そういう場所を探すことを諦めないで。
ADHDを許さない、「ちゃんとしなさい」っていう、コミュニティーってあるんですよ。その場所にいて苦しかったら、速攻で逃げ切る。そして多動性を生かして、衝動的にいろんな場所に行っていれば、きっといつか、本当の仲間ができるんで。「それがいい!」って言ってくれる人に出会ったときの快感を、みんなに体験してほしいです。
──ADHDを患うと、日常生活でうまくいかないことが多いかもしれないですが、武田さんのようにポジティブにとらえることができ、仕事に活かせているケースもあります。このインタビューが何かのヒント、光となればと思います。本日はありがとうございました。
・厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト:https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-04-003.html
(取材:たかまつなな/編集協力:塚田智恵美/監修:精神科医・森隆徳)
【PROFILE】
武田双雲(たけだ・そううん) ◎書道家。'75年、熊本県生まれ。東京理科大学理工学部卒業。3歳より書家である母・武田双葉に師事し、書の道を歩む。大学卒業後、NTT東日本に入社。約3年間の勤務をへて書道家として独立。音楽家、彫刻家などさまざまなアーティストとのコラボレーション、斬新な個展など、独自の創作活動で注目を集める。'13年には、文化庁より文化交流使の指名を受けて日本大使館主催の文化事業などに参加し、海外に向けて、日本文化の発信を続けている。
Twitter→@souuntakeda、公式ブログ『書の力』→http://ameblo.jp/souun/
たかまつなな ◎株式会社笑下村塾 代表取締役。'93年、神奈川県生まれ。時事YouTuberとして、政治や教育現場を中心に取材し、若者に社会問題を分かりやすく伝える。18歳選挙権をきっかけに、株式会社笑下村塾を設立し、出張授業「笑える!政治教育ショー」「笑って学ぶ SDGs」を全国の学校や企業、自治体に届ける。著書に『政治の絵本』(弘文堂)『お笑い芸人と学ぶ13歳からのSDGs』(くもん出版)がある。