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臼井孝の「大人ポップス聴き語り」

昭和の歌謡曲から平成・令和のJ-POPの時代まで、時を超えて語り継がれる名曲を創りあげてきたアーティストや作家などのMusicmanにスポットを当て、懐かしい歌も知らなかった歌もじっくり聴いてみたくなるようなインタビュー・コーナーです。

臼井孝

中森明菜『十戒』の作詞家・売野雅勇が語る、ユーミンとの“ブッキング騒動”の真相

SNSでの感想
1984年に行われた第3回『メガロポリス歌謡祭』で見事ポップス・グランプリを受賞した中森明菜
目次
  • “明菜ビブラード”が響く攻めの1曲
  • 中森明菜に今だから書きたい曲は

『十戒(1984)』のメロディーには俺が作る前に、ユーミンが書いた歌詞が付いていたんだよ。すごくいい歌詞だったみたいだけど、方向性が違ったからボツにしたんだって。俺も(その歌詞を)見たかったんだけど、ディレクターがちゃんと読ませてくれなくて。どうしても、ってお願いしたら最初の1、2行だけ教えてくれた。『ガードレール に腰掛けて、ポニーテールをほどいた』みたいな歌詞だったかな。“中森明菜”を意識してカッコいいでしょ?」(売野雅勇・以下同)

 そう語るのは、作詞家の売野雅勇『少女A』『1/2の神話』『禁区』など、中森明菜の初期のヒット曲を手がけた彼が、『禁区』以来3作ぶりとなる『十戒(1984)』を作詞したときのエピソードだ。当時、彼女のディレクターを務めた島田雄三からは、「次のシングルは強い女性路線で」と売野が発注を受けていたところ、作曲を担当した高中正義が、自身の判断で松任谷由実と話を進めていたらしい。つまり、発注の段階で何らかの誤解が生じ、作詞の依頼が重複していたそうだ。

“明菜ビブラード”が響く攻めの1曲

 売野が書いた『十戒(1984)』は、軽いノリの男子に対し《愚図ね》《過保護すぎたようね》《発破かけたげる》《限界なんだわ 坊や》と歌い、ラストに《イライラするわ》でトドメを刺すという、現代ならパワハラだとも言われそうなほど攻撃的なフレーズが続く。ちなみに、タイトルを“じっかい”ではなく“じゅっかい”と読ませたのは、単に売野がそう読むのだと思っていただけで、特に思い入れはなかったとのこと。

「これは、高中さんの曲に俺が後で歌詞をつけたんだ。ギターのインスト曲みたいなカッコいい作品がすでにできあがっていたから、言葉は当てにくかったかな。でも、『十戒(1984)』は強い言葉で相手を切り続けるようなサディスティックな内容だから、割とすぐに完成したよ。こういう路線はメチャクチャ得意なんだよね(笑)。実際、わずか2、3時間で書きあげちゃった。

 当時ちょうど、河合奈保子さんのレコーディングでロサンゼルスに連れていってもらったのだけれど、時間が余っていたからメキシコに遊びに行って、その滞在中に余裕で仕上げちゃったくらい。この歌詞に出てくるような言葉のアイデアは、コピーライター時代に鍛えられたのかもしれないね。もちろん、明菜ちゃんが歌う前提で書いたんだよ!

 当の明菜も、いつも以上に緩急をきかせ「イライラするわ~~~!!」と強めのビブラートで熱唱。さらに、レースを基調としたスカートやノースリーブのシャツ、手袋にショートブーツなど全身黒づくめの衣装をまとい、あえて笑顔を封印してパフォーマンスするなど、当時19歳にして、その確かなセルフプロデュース力を最大限に発揮した。しかも、クールな雰囲気で歌い終わったあとに満面の笑みを見せる姿も、今ならば“ツンデレ”と言われそうなほど魅力的に映ったことだろう。

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