いよいよ実食。カレーチャーハンの味はいかに?

カレーチャーハン(税込800円) 撮影/渡邉智裕

──先ほどから話題に上っている「カレーチャーハン」ができあがりました。茶色が食欲をそそりますね。

下関さんここの店のカレーチャーハンは、カレーだけではなくチャーハンにも鶏ガラスープが入っているのが特徴なんです。チャーハンにカレー粉も入っていて、さらにチャーハンにカレーがかかっている。中華屋のカレーって聞くと、チャーハンにカレー粉が入っているだけって思っちゃうけれど、町中華ではそれぞれ種類が違っていたりするんですよね」

餃子(税込550円) 撮影/渡邉智裕

──(実食して)確かに辛すぎず、チャーハンとカレーの両方の味が楽しめますね! 次は町中華には欠かせない餃子です。ゴロッと大きめの餃子ですね。

下関さんここの餃子はしっかりと肉の味がしますよね。食べごたえがある。餃子の数も調整してくれるのが町中華のだいご味。あと『町中華のオムライス』も絶対食べてもらいたいです」

町中華のオムライス(税込800円) 撮影/渡邉智裕

──オムライスなのに、使われているのは鶏(チキン)ではないんですよね?

店主の井手さん「うちのオムライスは豚ひき肉。チキンライスとは言っていないでので大丈夫(笑)」

下関さん町中華でこそ、こういうオムライスやチキンライスを頼んでほしいって思うんだよね。だってチキンライスって言いながら、ポークを使っているからね(笑)

──オムライスは卵がふわっとして優しい味がします。味つけはどのようにしているんですか?

井手さん「うちはケチャップと塩と豚ひき肉だけですね」

下関さん中華鍋に旨味がしみこんでいて、高温でケチャップの酸味が飛ぶので、まろやかな味になるんですよね。町中華でオムライスをすすめるのはそういう部分なんですよね

カツ丼(税込1000円) 撮影/渡邉智裕

──では町中華でぜひ食べたほうがいいという「カツ丼」。これはどのような味付けなのですか?

井手さん「うちはシンプルにしょうゆと砂糖と粉末出汁(だし)だけ。カツはラードで揚げています。カツ丼の出汁には、ラーメンなどで使う鶏ガラスープを使っているのが特徴です

──確かに、蕎麦屋さんなどのカツ丼とは違って、優しい甘みがあって冷めてもおいしそうですね。

女将さん「コロナ禍で店を営業できなかったときには、カツ丼弁当を出していたんです。カツ丼は、大量には作れないけれどお店では絶対に出る、隠れた人気メニューなんです」

町中華の店には人生ドラマが詰まっている

──先ほど、町中華には『未亡人中華』という分類がある(第1弾参照)とおっしゃっていましたが、こちらの店も実は……。

下関さん「そうなんです。先代のご夫婦が熊本県出身で、上京して住み込みの場所を探されて高円寺で出会うんですよ」

井手さんのお父様で、先代の店主。カッコいい!(提供写真)

井手さん「先代の父は中国人で、僕はハーフ。父は腕はあったけれど職人気質なところがあって、すぐケンカしちゃうんです(笑)。それであちこちの店を転々としていた。最終的には武蔵小山にあった『美華飯店』という店の初代にお世話になって、初代が店を手放すときにお店の権利を買い取ったんです。それがちょうど55年前かな。そこから父が先に亡くなって母が店の厨房に立っていました」

──長い歴史があるんですね。旦那さんに先立たれた奥さんが店を引き継ぐ場合、どうやって料理を覚えるのでしょうか。

下関さん「いろいろなケースがありますね。旦那さんが作っていた料理を味見していて、見よう見まねでマネしてその味にたどり着くまで試行錯誤された人とかもいますね。でも多くは旦那さんがいたときよりも、メニューを少なくして営業しています。中には“新しく加えたメニューもあるんです”と言われて聞いてみたら、豚汁だったことも。『五芳斉』(神楽坂)っていう店ですが、家庭の味の豚汁を出したら、好評だったんですよ」

──そこからメニューがバラエティ豊かになっていくのですね。

下関さん「『五芳斉』はラーメンやワンタンメンが有名な店だったけれど、定食の小鉢が小ラーメンではなくて豚汁にも変えられるんですよ。やはり女性のほうが長生きなので、旦那さんに先立たれた後のお店も、切り盛りされる方が多いですね」

──町中華として親しまれている美華飯店の歴史の中で、思い出深かった出来事はありましたか?

井手さん「美華飯店の権利を譲り受けて56年になりますが、武蔵小山の店舗は1990年に火事に遭ってほとんど焼けちゃったんです

──火事ですか!?

井手さん「放火だったのですが、店と隣の塗装工場が長屋のようにつながっていて、その工場の山積みになっていたシンナー缶に引火したんです。それで昔の店舗はほとんど焼けちゃったんです」

武蔵小山にあったころの美華飯店(提供写真)

──そうですか……失礼ながらも、町中華の店にはいろいろなドラマが詰まっているのですね。旧店舗のお写真も、昔ながらの町中華という感じで味わいがありますね。

下関さん「いい写真だよね。武蔵小山から西大井に来たのも、その後、再開発で駅前のビルに入居できたというのも、本当に運の巡り合わせですよね」

──改めて、町中華のだいご味とは何でしょうか。

下関さん町中華っていうのは、普通のグルメとは少し違っていて、“おいしいから食べに行く”ではなくて、その店自体を楽しむ、一種のエンターテインメントなんですよ。そこの部分が、いまいち理解されていないと感じていますね。カツ丼と餃子の組み合わせがあるのって、まさに町中華ならではなんですよね

下関マグロさん 撮影/渡邉智裕

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 町中華は、食べるだけではなくメニューから店の雰囲気、歴史も含めて楽しむというのが達人からのアドバイス。ぜひ気になっていた町中華の店に食べに行ってみてください。これまで気づかなかったサプライズに出合えるかもしれません。

■撮影協力:美華飯店
東京都品川区西大井1-1-1 Jタワー西大井ウエストコートA-103

《PROFILE》
下関マグロ(しものせき・まぐろ) 
1958年、山口県下関市生まれ。桃山学院大学卒業後、出版社勤務を経てフリーライターに。 町中華探検隊の副長として活動中で、共著に『町中華とはなんだ 昭和の味を食べに行こう』(角川文庫)、『町中華探検隊がゆく!』(交通新聞社)など。CSテレ朝チャンネル『ぶらぶら町中華』に北尾トロと出演中。