卵子凍結後“よかったこと”と今後の彼女の新たな選択肢

――凍結した卵子の保管もお金がかかるとか。

「はい。私はひとつなので年に数万円程度の出費ですが、ある女性弁護士の方は20個ほど凍結したとテレビで言っているのを見ました。そうなると、かなりの額になりますよね。

 実は、“凍結した卵子で必ず妊娠できるものではない”とお医者様から言われました。ですから、これはある種の保険というか。私が年齢を重ね、40代になってから使うことを考えようかと思っています」

――いろんな気づきがあったのですね。

「はい。今回の経験から、“いいこと”がいくつもありました。ひとつは、子どもを持つことに対して考えが深まったこと。以前は、好奇心が先走っていましたが、子を持つことに対して具体的に考えるきっかけになりました。30代半ばに差しかかり、出産適齢期を考えると“あまりのんびりもしていられないな”という気持ちにもなりましたね。

 また、今回いろいろと知れたことで“卵子凍結に限らず、相手がいなければ妊娠・出産できないわけではない”とわかりました。自分の意思で決められる選択肢があることは、どんな女性にとってもいいことだなと思います。

 不妊治療を経験している友人と垣根なく話せるようになったこともいいことですね。“あの注射、イヤだよね”と共感できるようになりました。

 友達の中には、“結婚して性交渉し、赤ちゃんができるのを待つこと自体が今の時代に合ってない”という人もいます。時間の無駄を省くためにも、最初から不妊治療クリニックに行くほうが、効率的だと考える人もいるのだなと。卵子凍結をオープンにしたことで、今まで話しにくかった話題を話しやすくなったことも、いいことだと思います

――卵子凍結してから少したちますが、今のお考えをお聞かせください。

「通院を始めたころは、友達から“前のめりすぎるよ”とたしなめられるほど夢中になっていましたが、いまはあまり重要だと考えていないんですよ。

 実は、話を聞いた団体の方からは”精子バンクという手段もある”と教えてもらいました。自分で調べたところ、金銭面も50万円程度で卵子凍結と変わりませんし、海外の精子バンクから国籍や人種、年齢など、細かな希望を出して、輸入する仕組みだそうです。心身への負担などを考えると、“精子バンクのほうが手っ取り早いかもしれないな”と思っているところです。

 私がクリニックに通ってみて感じたのは、“「不妊治療」というのは、あくまでもワードに過ぎないのだな”ということ。“妊娠・出産しやすい環境に整えていく場所なんだな”と思いました。

 そうした大切な気づきも含めて、妊娠や子どもを持つことと真剣に向き合うための、“卵子凍結”という高額なセミナーに通ったような気持ちなんです」

(取材・文/キツカワユウコ、編集/本間美帆)


【PROFILE】

黒川アンネ(くろかわ・あんね) 1987年生まれ。編集者、翻訳者、コラムニスト。一橋大学社会学部在学中にドイツに派遣留学。一橋大学大学院言語社会研究科修士課程修了。2022年自身のモテ奮闘記をまとめた『失われたモテを求めて』(草思社)を発売。Twitter→@annekurokawa