「高円寺」という街の名前を聞いて思い浮かべるものは何ですか? 芸人が住む街、古着屋、サブカルチャー発祥の地……。JR中央線の駅のひとつである高円寺は、ほかの東京の街にはない魅力を感じて目指してくる若者も多く、活気にあふれています。
昨年放送された『出没!アド街ック天国』(テレビ東京系)の「芸人さんたちの高円寺」回で、マヂカルラブリー・村上さんがM-1優勝とともに叶(かな)えたかったもうひとつの夢が「『SHOW-OFF』の表紙を飾ることだった」と発言。高円寺芸人にとってはひとつのステイタスとなっているようです。
今回は、高円寺のフリーペーパーとして23年の歴史を誇る『SHOW-OFF』を発行する有限会社HOT WIRE GROUPの代表取締役で、編集長も務める佐久間ヒロコさんにお話を聞きました。
カフェのPRのために冊子を作ろうと思ったのがきっかけ
──まず、『SHOW-OFF』とはどういう意味なのでしょうか?
「直訳すると“見せびらかす”っていう意味ですね。私は古い車が好きなのですが、アメリカには日本でいう『トミカ』みたいな『HotWheels』というミニカーのブランドがあって、そこが古いフォードの車のおもちゃを出していたんです。その車の愛称が『SHOW-OFF』で、調べたら“見せびらかす”という意味だとわかって。“面白い本ができたら、みんなに見せびらかす”という意味で、すごく合っているなって思って付けました」
──印象的な名前ですよね。
「でも電話口の向こうの人には“娼婦”って聞き間違えられたりして(笑)。字面で見ないとわかりづらいのは予想外でしたけど」
──『SHOW-OFF』はどのようにしてスタートしたのですか。
「『SHOW-OFF』は、自分の店のPR冊子を作ろうって思ったのがきっかけです。
もともと私は建築関係の仕事をしていて、設計をする事務所として立ち上げたのが今の会社だったんです。洋服や音楽、車も古きよきアメリカのものが好きで、とにかくアメリカに行きたくて、仕事の合間に旅行に出ていました。でも根が商売人なので、海外で古着を買ってきて知り合いの洋服屋に販売していたんです」
──今でいうバイヤーですよね。
「建築の仕事が本業だったので、古着はサイドビジネスのつもりでした。そこから店を出すことになって、知り合いも多い高円寺にしたんです。原宿は家賃が高かったですからね。
1995年に高円寺に『HOT WIRE』という古着屋を出店したのを手始めに、古着屋を何軒か経営する中で、今度は『HOT WIRE CAFE』というメキシコ料理店を高円寺ルック商店街に出したんですよ。そのお店のPRをしようと思ってチラシを作ろうと思ったんです」
──フライヤーのつもりが、冊子になったのですね。
「2000年って今みたいな印刷技術もないし、デジカメも貴重。まだ写植(注・写真植字の略。文字を印画紙やフィルムに焼き付け、映し出す方法)と呼ばれるやり方で作っていたので、冊子を作るのもハードルが高かったんです。でも私の周りにそういうものが作れるデザイナーやカメラマンがいたんですよ。私は編集業をやっていたわけではなかったのでツテを頼りながら2000年5月から取材を始めて、実際に発行できたのは12月になっていました。表紙の撮影も夏だったから、薄着なの(笑)。もう創刊号は1冊しか残っていないんです」