ギタリスト役の永瀬正敏の役作り
──永瀬正敏さんがギターを弾く姿はすごく自然でカッコよかったです。
「永瀬さんは俺がギターを弾いている動画をスマホで撮って、家に帰ってからも練習してアレンジしたみたい。一緒に飯食いに行こうって誘われたけれど、その間も観察されている感じがしたね(笑)」
──最近では珍しいタバコを吸うシーンも、印象的でした。
「永瀬さんはプライベートでもヘビースモーカーなので、“映画の中でタバコを吸っても大丈夫”と言ってくれました。永瀬さんがタバコを吸うなら、KEE君(渋川清彦・映画ではアニマル役)は葉巻きにして、若い子は電子タバコにしようって決めたんです。劇中で有森(有森也実・映画では雅美役)さんがタバコを2本吸っているのも意味があって、映画『マトリックス』の預言者にちなんでいるんですよ」
──細部にもこだわっているのですね。
「細かいところでいうと、永瀬さんがギターの調律をするときに、音叉(おんさ)をくわえているんだけど、その音叉がC528Hz。でも一般的には国際標準に定められたA440Hが使われているんです。528は脳にいい周波数って言われていて、ジョン・レノンも使っていた。映画の中では、永瀬さんが528で町田(町田康・映画ではバックドアマン役)が持っているのが440なんです」
──映画の中で俳優さんたちの動きも、自由な感じですよね。
「アニマル役のKEE君は、絶対にキャラクターをデフォルメしたほうが面白いって思って。再結成したバンドが取材されているシーンは、役者さんに好き勝手に動いてもらいました。メンバーそれぞれが撮影されているシーンで永瀬さんが“ブラジャーがしたい”っていうから、“何色?”って聞いたら“赤”って。俺が指定したわけじゃないからね(笑)。でもそういう自由なほうが役者さんも楽しいと思うんですよ」
──藤沼監督は現場では怖い監督でしたか? それとも優しかったですか?
「怒ったりも一切しないし、和やかだったよ。頭ごなしに怒ると、みんなのパフォーマンスが下がるじゃないですか。そんなの、絶対によくならない。俺も怒られてギター弾いても絶対にうまく弾けないから。みんなの士気を高めるにはどうしたらいいかをすごく考えました」
──そのようにチームをうまくまとめる力は、どのように身につけましたか?
「もともと備わっていたと思う。でもバンドのメンバーには、悪態をついているけどね。優しいのは映画のときだけですよ(笑)」
◇ ◇ ◇
淡々とした口調の中に、熱い思いが伝わってくる藤沼さん。後編では、映画にも出てくる親衛隊の存在や、殴り合いが起こる80年代のライブハウスシーンについてお聞きしています。
(取材・文/池守りぜね)
〈PROFILE〉
藤沼伸一(ふじぬま・しんいち)
1980年、伝説のパンクロックバンド「アナーキー」のギタリストとしてデビュー以来、その独自のギタースタイルがさまざまなアーティストから評価され、42年間で参加したレコーディングアルバムは100枚に近い。『Player』誌上では日本の5大ブルースギタリストと紹介されるなど、ジャンルに縛られることなく、パンク、ロック、ブルース等、さまざまなギタースタイルが好評を得ている。2002年には集大成的なソロアルバム『Are You Jap?!』をリリース。現在も、舞士、Ragina、泉谷しげるなどとライブ活動を精力的にこなしている。
〈Information〉
■映画『GOLDFISH』
3月31日(金) シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次公開
出演:永瀬正敏、北村有起哉、渋川清彦、町田康、有森也実、増子直純(怒髪天)、松林慎司、篠田諒、山岸健太、長谷川ティティ、成海花音
監督:藤沼伸一
脚本:港岳彦、朝倉陽子
企画:パイプライン ミュージック・プランターズ
製作プロダクション:ポップライン、ドッグシュガー
製作:GOLDFISH製作委員会
共同製作:沖潮開発
配給:太秦、パイプライン