「事務所には公私ともに大変お世話になりました。本当に家族のような感じで応援していただきました。自分としては居心地がよく、甘えてしまう環境でした。
が、僕ももう49歳。こんどの4月には50歳の節目を迎えます。芸能活動も30年が過ぎて “ああ、もうここだな” と。今後は自分の生活に責任を持つという意味で “独立”という道を選ばせてもらいました」
俳優・葛󠄀山信吾が長らく所属していたCESエンタテインメントから独立。2021年11月1日から個人で活動をスタートさせた。大きな決断に至った心境や、これまでの芸能生活、今後の展望について本人に語ってもらった。
コロナ禍での苦悩
インタビュー当日、ひとり愛車を運転して取材場所に現れた葛󠄀山。
「すごく身軽ですね。今日の取材もそうですが、お仕事のメールのやりとりとか慣れない部分もありますが、すべて自分でお話しして、疑問点があったら直接確認ができ、納得して進めていける。すごく自分には向いているというか、合っているという感覚です」
思い切った決断にも思えるが……。
「きっかけになったのは、やはりコロナ禍です。予定していた舞台が立て続けに中止になりまして、これはヤバいぞと。収入の道を断たれたときに自分に何ができるか考えました」
一昨年の2020年は舞台『新・陽だまりの樹』と『巌流島』への出演が予定されていた。
「『新・陽だまりの樹』は3月から稽古だったんですが、だんだん世の中が騒がしくなってきて “本当に大丈夫なのかな!? ”と。時代劇で立ち回りも激しい作品なので “1人でも持ち込んだら、あっという間にクラスターになるぞ”という不安がありました。
主演の上川隆也さん以下みんなで感染対策に気をつけていましたが、スタッフさんも含めて年配の方々も大勢いらっしゃって。自分も “舞台をやりたい”っていう気持ちと恐怖心との間で揺れ動いていました。
そんな中、志村けんさんがお亡くなりになったニュースもあって……。不安な中で4月3日ぐらいまで稽古していましたが、緊急事態宣言が4月7日から発令されることになり、全公演の中止が決まったんですね」
プロデューサー判断でとにかく映像だけは撮ることになり、無観客で収録したものが後日CS系で放送されたりDVDで発売されるのだが、止まった時はどちらかというと安堵(あんど)感のほうが大きかったという葛󠄀山。だが、やがて別な感情がこみ上げてくる。
「僕は結婚して2〜3年目ぐらいから事務所とは別に会社を作っていて、自分でできることはそちらでしていたんですね。ファンの方から舞台のチケットの予約も受け付けていたんですけど、その返金作業をパソコンで1件1件やっていたら “ああ、やっぱりくやしかったんだな”と。みなさんが楽しみにしてくださったのに申し訳ない、とても残念でくやしい思いになったのを覚えています」
役者の仕事以外できない……
その後8〜9月に予定されていた『巌流島』も、感染者が出て全公演が中止に。
「収入面ではガタ落ちといいますか激減しました。生活していけるのか不安が大きくて “アルバイトでも何でもやっていかなきゃいけないんじゃないか”といろいろ調べました。具体的には体力維持につながるような荷物を運ぶ仕事とか、配送センターで荷物の仕分けとか。
あと僕はキャンプが好きなんですが、自宅の近くにビンテージのランタンとかを扱っているようなアウトドアのお店がある。そこが一時アルバイトを募集していたので “面接に行ってみたいけど、この年じゃ無理かな”と思ったり。
そんな中で痛感したのは、やっぱり “役者の仕事以外に何もできない”ということ。いつまでコロナ禍が続くか先の見えない状況で、社会人として何かを身につけたほうがいいんじゃないかっていう思いもありますが、とにかく自分で自分の責任を持とうと決めました」
しばらくはマネージャーをおかず、新たに設立したオフィシャルサイトを窓口に、個人で仕事を受けていくという。
「事務所に所属しているといろいろな規制を受けるというか、どこかで縛られているような感覚もあったんですね。髪形ひとつにしても “切りたいけど切ってもいいかな?” “今はやめてください”とか。自分の感覚で進めていくのに壁になる部分もあったので、ぜんぶ自分の判断でやっていける状態にしようというところで独立させていただきました。
年齢的なことも大きかったと思います。僕はもうすぐ50歳ですが、みなさんいろんな思いがあると思うんですよね。会社員でずっと定年まで勤めあげる方もいれば、独立したり別の会社に移る決断をされる方もいる。年齢的にそういう感覚ってあるんだろうなって、自分の仲間を見ていても感じます」
妻・細川直美や2人の娘の反応はどうだったのだろうか。
「家族も理解してくれました。いろいろ不安がらせてしまった部分がありますが、妻の支えもあって、いま僕は自由な状況を持たせてもらっている。子どもたちも含めて家族でなんとかやっていこうと話したり、逆に団結が強くなりました。大変な状況の中でも、なんとか明るく前向きに普通に生きられたらいいなと思っています。今はワクワク感のほうが大きいです」