『渡鬼』出演が決まったひと言

 俳優としてはNHK『夢暦長崎奉行』(1996年)で復帰した。若き日の遠山の金さん=遠山金四郎(葛󠄀山)と長崎奉行である父(小林稔侍)を中心に、さまざまな事件と親子の葛藤を描く作品。葛󠄀山にとって、これが初めての時代劇だった。

 さらに転機となる役に出会う。

NHKの大河ドラマ『元禄繚乱』(1999年)は本当に大きかったです。忠臣蔵の話で主演の大石内蔵助が、当時まだ中村勘九郎だった中村勘三郎さん(十八代目)。僕は岡野金右衛門という役で赤穂四十七士に入れていただきました。

 討ち入りの準備のため、吉良邸を設計した大工の棟梁の娘さん(中山エミリ)に色じかけで近づいて、屋敷の中がどうなっているかを知るために絵図面を手に入れる密命を帯びた役割で。印象的なエピソードなものですから、過去にもいろいろな俳優さんが演じています」

 脚本家・橋田寿賀子とTBS石井ふく子プロデューサーの名コンビから『渡る世間は鬼ばかり』に呼ばれたのもこのころ。

大河ドラマを見た橋田先生と石井先生は “この子!”と。それで声をかけていただいた、と聞いています。ただ『渡鬼』よりも前に『仮面ライダークウガ』の話が来て決まっていたんです。『仮面ライダー』は月曜から金曜ほぼ撮影で、放送も1年間でしたから台本がすごい勢いであがってくる。土日にセリフをぜんぶ覚えて週5日の撮影に挑もうと決めた直後に、石井先生からお話をいただいたので “もうこれはお断りするしかない”という状況で。

 最初はマネージャーが1人で行くと言ったんですが、せめて自分から直接おわびをしたくて “僕も一緒に行きます”と出かけたんです。 “本当にありがたいお話なんですが……”と事情をご説明したら、石井先生にひと言 “なんとかしなさい”って言われまして。もう “わかりました!”と(笑)。そのおかげで、『仮面ライダー』と『渡る世間は鬼ばかり』を並行してやらせていただくことになりました

 『渡る世間は鬼ばかり』は1999年〜2007年まで出演することになる。

葛󠄀山信吾 撮影/渡邉智裕

もがき苦しんだ『真珠夫人』

 東海テレビの昼ドラマ『真珠夫人』(2002年)も注目を集めた。旧華族令嬢の数奇な運命を描いた作品だが、波乱万丈すぎる展開にくわえて、ヒロイン・瑠璃子(横山めぐみ)と葛󠄀山演じる直也との関係を嫉妬する妻(森下涼子)の描写は「怖すぎる」とお茶の間を震撼(しんかん)させた。

「そうでした(笑)。『仮面ライダー』でお母さんのファンができて、その後『真珠夫人』で昼オビに出てまた主婦層だったりいろんな方々に見ていただいて。“たわしコロッケ”とか大いに話題になりました。脚本があがってくるたびに “これはありえないだろう”という(笑)。『元禄繚乱』と同じ中島丈博先生が執筆されているんですが、最初は本当に理解に苦しみました。

 監督さんとかプロデューサーさんと “いやぁ、こうはならないでしょ!? ”って闘いながら撮ったんですけど、だんだん “そうか! これは、こうはならないでしょ!? というのをお客さんに突っ込ませてナンボの作品なんだ”と。オンエアが始まって視聴者のリアクションが伝わるにつれて、ようやく脚本の意図が理解できるようになりました。実際の自分と役のもがき苦しむ姿が重なった作品でした(笑)

 細川直美と結婚したのは、『真珠夫人』の余韻が覚めやらぬ2002年10 月のことだ。

 駆け足でキャリアを振り返るインタビューのなか、葛󠄀山は何度か「自分は欲がない」という言葉を口にした。デビューのきっかけとなったジュノンボーイも、本人の知らないところで姉が応募したもので、そうした「欲のなさ」が一度は引退を決意した要因にも思える。

 だが、監督・演出家・プロデューサーなどスタッフや共演者たちから愛され信頼されるキャラクターは貴重だ。「役者以外何もできない」と本人は謙遜するが、ある意味、役者が天職とも言えるのかもしれない。

 最後に「芸能界に入ってよかったですか?」と聞いてみた。

そうですね……、入ってなければ違った人生もあったのかもしれませんが、今の自分があるのは、ここまで応援してくださったたくさんの方のおかげです。本当にありがたいなと思います。感謝です!!

葛󠄀山信吾 撮影/渡邉智裕

(取材・文/川合文哉)

※葛󠄀山の葛󠄀は「艸(くさかんむり)+日+匂」。漢字異体字を表示できない環境で記事をご覧になると「葛山」(艸+曷)になる場合があります。

【出演情報】
2022年は明治座の舞台『サザエさん』からスタート(1月29日〜2月13日)。大阪・新歌舞伎座(2月22〜27日)、福岡・博多座(3月3〜6日)でも公演が。
◎舞台「サザエさん」オフィシャルHP
http://www.sazaesan-stage.jp/

◎葛󠄀山信吾オフィシャルサイト
https://shingokatsurayama.com
◎葛󠄀山信吾オフィシャルブログ
https://ameblo.jp/s-katsurayama/