馬鹿ブス貧乏の仕事はAIと競い合いになるのか?

──先生は、馬鹿ブス貧乏の仕事はAIに奪われると思いますか?

「こんな程度でカネになるんだという、とても単純な仕事は、そらぁAIに取られちゃうでしょうね」

──残る職業、生き残りやすい人について教えてください。

いろんなシチュエーションを考えて動いている人はどんどん成長していく。そういうタイプの人っていうのは、私は絶対に需要があると思っています。

 AIがいちばんできないのは、やっぱり感情労働です。人のケア仕事。ケア仕事は奥が深いですよ。そのタイプの仕事が消えることはないと思いますから。そのためにも、女性も男性も関係なく、日々、自分を向上させることを楽しんでいかないといけないでしょうね

──向上心がある人間はAIと主戦場が違う、と。

「人間がやるしかないことは多いですよ。よほど高い意識を持っていないと、人間相手のことはできない。だから生き残るためにも高い意識は必要ですね

──「高い意識」について、具体的に教えてください。

相手を大事にできる人たち。その意識が社会的スキルとして認められる時代が来ると思います。人間はみな自分のエゴイズムには鈍感ですが、人のエゴイズムには敏感。あぁ、この人は私を計算づくで使っているなとか、ただ口先だけだなとか、どんなに鈍い人でもわかるから

──先生も「馬鹿ブス貧乏」の中にも鋭い読者がいるとおっしゃっています。そのためか、今回の新刊は、ゲラ確認の段階ですべて書き直したと話しておられました。

「ボツにした原稿とどっちがいいかわからないくらいですけれども、これではカネを取って出せるものではないと思ったので。やっぱり、自分に恥じないようにやるしかないですね。それがいかに古臭く見えても、それしか手がないでしょう

──実直に働きながらも、現在、報われない思いをしている方も多くいると思いますがどうでしょうか。

「仕事って、評価されなくてもね、どこかで誰かが見てくれているかもしれないので、手を抜かないできちんとやることですよね。カネにならなくとも。あぁ、手を抜いちゃったなと自分で思わなくてすむように、自分が納得いくまで。それから、仕事っていうのは、継続性がないといけないですね

―─先生の先ほどの「逃げていい」発言とは別の意味の継続性でしょうか?

まず、自分が続けられる仕事を考える。続けられそうな職種を見つけたら継続するということです。

 適性、自分の向き不向きを考える。継続できる仕事を考える。人間なんて、まったく別種の仕事なんか簡単にはできないので。自分に適した仕事を手を抜かないで、地味だろうが、やっていく。それしかないでしょう。ごくごく普通のことです。新刊に書いたとおり、『似非(えせ)帳簿文化』的な現代で、なんでも短絡的に考えがちだけど、やはり長期戦でものを考えようと言いたいですね

もっと長期的に自分の人生を構築していったほうがいい

―─「似非帳簿文化」とは、具体的に言うと?

「本来の『帳簿文化』というのは、短期の損得ではなく、初期には設備投資、研究開発費、いい人材の確保などの投資が必要でした。それが正しい資本主義のあり方で、資本主義は帳簿文化で繁栄してきたはずです。

 ところが今は、すぐに利益、すぐに損得でしょう? それが新刊でも書いた『似非帳簿文化』というものです。その場ですぐに快楽を求める。その場ですぐに自分の得になることを取るという。これはものすごく短絡的だなと思いますね。それだけ自分の感覚、自分の人生を信用していないのかな? と思います。

 長期投資みたいな感じで人間関係を考えてもいいわけ。人間関係がものをいうのは月日なんですね。いいものっていうのは時間の蓄積がいるんですよ。友人でもなんでも、時間の中で淘汰されていくので。女性同士の友達でも10年、20年続かないと、本当のよさはわからないです。男なんて、本当は20年くらい付き合ってみないとわからない(笑)。例えば、今はこんなだけれども、10年後にはうまい具合にいくんじゃないかとか考えながら付き合ってみるのも大事でしょう。

 長期的視野に基づいた計算が、今は弱くなったのかなと感じます。もっと長期的に自分の人生を構築していきましょうよ

(取材・文/七尾びび)

藤森かよこ=著『馬鹿ブス貧乏な私たちが生きる新世界無秩序の愛と性』(KKベストセラーズ刊)※記事内の写真をクリックするとAmazonの紹介ページにジャンプします

《PROFILE》
藤森かよこ(ふじもり・かよこ)
大学教員を経て著述業にいたる。1953年、愛知県名古屋市生まれ。南山大学大学院文学研究科英米文学専攻博士課程満期退学。元祖リバータリアン(超個人主義的自由主義者)である、アメリカの国民的作家であり思想家のアイン・ランド研究の第一人者。アイン・ランドの大ベストセラー『水源』『利己主義という気概』(ともにビジネス社)を翻訳刊行した。著書に『馬鹿ブス貧乏で生きるしかないあなたに愛をこめて書いたので読んでください。』『馬鹿ブス貧乏な私たちを待つろくでもない近未来を迎え撃つために書いたので読んでください。』(ともにKKベストセラーズ)や『優しいあなたが不幸になりやすいのは世界が悪いのではなく自業自得なのだよ』(大和出版)がある。