冷静さを欠くコナン、緊迫した空気からスタート
まず、今回コナンが立ち向かうミッションは大きく分けて3つ。灰原哀の救出、海洋施設「パシフィック・ブイ」で発生した殺人事件の真相解明、そして最後に黒の組織の潜水艦を爆破することだ。
特に、コナンにとっては秘密の共有者にして唯一無二の相棒である灰原哀が黒の組織に攫(さら)われるという衝撃の始まりは、今までの劇場版シリーズとは一線を画した緊迫した空気が漂う。その証拠に、事情聴取にやってきた佐藤刑事に対して感情的になるなど、明らかに普段の冷静さを欠いているコナンの姿から、ただ事ではない様子をひしひしと感じる。
だが、持ち前の推理力で次々とミッションをクリアしていくコナン。もはや無邪気にコナンくん! とは呼べず江戸川様……とその活躍に惚れ惚れしてしまう109分だったが、その活躍は決して彼ひとりの“コナン無双”ではない。
例えば、その正義感と圧倒的な身体能力で黒の組織の一員・ピンガに立ち向かう蘭、コナンのスケートボードに負けず劣らずの超絶ドラテクで灰原哀を奪還しようとする阿笠博士。さらに、因縁の仲である赤井秀一と降谷零の束の間の共闘……。工藤新一ではなく江戸川コナンとして培った仲間たちが各々の持ち場で目の前に敵に挑む。まさに“全総力戦”という言葉がぴったりなほど、勢いと迫力に満ちた戦い方だった。
灰原哀から感じるあの人の面影
そして、もちろん今回のキーパーソンである灰原哀においてもぜひ注目してほしいシーンがある。それは、ともに黒の組織の人質となってしまった直美に灰原哀が叱咤激励するシーンだ。
「子どもの言葉や行動で人生が変わることもある。私はそれを実感して変われた。だから私を信じて!」
これは彼女が“灰原哀”として生きてきた時間、そしてその中でかかわってきた江戸川コナンを始めとする、少年探偵団などの仲間たちがいたからこそ出たセリフ。どこか生きることへの執着が薄く、自己犠牲心が強い彼女が言ったとは思えないほど、心境の変化や成長を感じるシーンだ。