誰に対しても怒りの感情がわかない理由

──勝村さんが、今ご自身の人生で一番大切にされていることは?

もう成人していますけど、娘の存在っていうのが、やっぱり大きいのかなって思います。先日、俳優の駿河太郎くんや金山一彦くんと話していたときに、“勝村さんって怒ったことがあるんですか?”って言われて。実はそれは最近、よく言われることなんです。

 若いころは怒りが演劇のエネルギーだったんですけど、娘が生まれて、彼女を守らなきゃいけないってなって。守るときに怒りは邪魔になるし、僕がフラットでいないと娘を守っていくことができないと考えて、アンガーコントロールができるようになってきました。だから今は怒ることがなくなりましたね。サッカー仲間に対してもそうですし、もう誰に対しても怒りの感情がわかない気がする(笑)

勝村政信さん 撮影/吉岡竜紀

──年を取ってくると、短気になって怒りっぽくなったりすると思うんですが、逆なんですね?

娘が生まれたばかりのころは、カチンときたときに心の中で娘の名前を10回唱えるっていうのをやっていました。そうすると、普通に“よろしくお願いします”って言えるっていう(笑)

──愛ですね?

そうですね。愛が広く深くなってきたのかもしれない(笑)

──今後の人生をどう生きていきたいですか?

「同級生や仲間が、少しずつ亡くなってきて。それは本当にロシアンルーレットみたいなもので、ちゃんと検査をしていても病気になることはあるし、誰がいつどうなるかわからないなと思うんですよね。最近でも、素晴らしい演劇人でサッカー仲間でもある劇団『東京オレンジ』演出家の横山仁一(きみかず)くんが突然亡くなって……。だからなるべく老いを受け入れながら、周りに迷惑をかけないように、徳を積んでいきたいですね

──徳を積むとは、仏のようなお言葉ですが。

「ハハハ。あの、家の大きな植木鉢に、春になると花がとてもきれいに咲く木が植えてあるんですけど、落ちた花びらを僕が掃除しているんですね。最初の何年かは“なんで俺以外やらないんだよ!”って腹立っていたんですが、今は、みなさまに徳があるようにやってます(笑)。レレレのおじさんみたいに、掃除してます。掃除していると、ご近所の人が“ご苦労さまです”とか挨拶してくれるんですよね」

──どんどんいい人になっているんですね?(笑)

それはそれで困るんですけどね(笑)。でも、そんな感じになってきました

(取材・文/井ノ口裕子)

《PROFILE》
かつむら・まさのぶ 1963年7月21日、埼玉県出身。ニナガワスタジオを経て、1987年に劇団「第三舞台」に入団。以来、’92年に退団するまで主要メンバーとして活躍する。現在では舞台以外にもテレビドラマや映画など数々の映像作品に出演。近年の主な出演作に、『あゝ、荒野』(’11年)、『ウーマン・イン・ブラック』(’15年)、Bunkamura『罪と罰』(’19年)、『Defiled-ディアァイルド-』(’17年)などの舞台作品のほか、映画『地獄の花園』(’21年)、『アノニマス~警視庁“指殺人”対策室』(テレビ東京系・’21年)、『ドクターX~外科医・大門未知子~』シリーズ(テレビ朝日系・’12年~)など。2011年『FOOT×BRAIN』(テレビ東京系・土曜24時20分~)のMCを務める。

●公演情報
『ライフ・イン・ザ・シアター』
脚本:デヴィッド・マメット
翻訳:小田島恒志
演出:千葉哲也
出演:勝村政信 高杉真宙
日程・会場:
【東京公演】2022年3月3日(木)~3月31日(日)新国立劇場 小劇場
【大阪公演】3月19日(土)~3月21日(月・祝)サンケイホールブリーゼ
【広島公演】3月24日(木)広島 JMSアステールプラザ大ホール
【福岡公演】3月26日(土)・3月27日(日)久留米シティプラザ ザ・グランドホール
【札幌公演】4月2日(土)・4月3日(日)道新ホール
【金沢公演】4月10日(日)北國新聞 赤羽ホール
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